ベーヤンからメールが来た。榊原さんがフィリピンから戻ったので飲もうよとお誘いだ。いつものオーセントホテルへゆく。
・・・
ベーヤン「この時期はフィリピンにいるはずの榊原さんが一寸日本へ戻ってきた。また来週フィリピンへゆくんだって。」
榊原「日本の建築士事務所の登録期間満了がきたんですよ。例の構造疑惑問題以来3年毎の事務所登録更制度に変わったんですよ。その前に更新の手続きをしないと抹消されて新規登録。この時期、フィリピンは乾季だからすごしやすいです。そんなときに・・、アチャー寒い日本ですか。」
ベーヤン「いつも冬は日本にいないよね。それでこんな半端な時に日本へくるわけだ」
「よく忘れずに思い出しますねぇー」
ペーヤン「上さんとのエッチは忘れないよね。そうなると例えば!?」
榊原「ハハハ・・、そのエッチがらみなんですよ。もう75歳になると精力剤の世話にならざるを得ない。」
ベーヤン「なんでよ。それって飲み忘れたとか・・・・」
榊原「それはよくある話です。実は薬の置き場を忘れたのですよ・・・。」
ペーヤン「今夜はするから飲んでおこうというわけだ。」
榊原「はい、いつも日本でシアリスを買い込んでゆきます。」
「バイアグラならフィリピンにもあるんじゃないの?。」
榊原「ハイ!、フィリピンで手に入れることは出来ます。なにしろシニアになっても恋をして結婚するぐらいの国ですから。でも副作用があるから、私はシアリス派ですね。日本の泌尿器科のクリニックにゆけば簡単に手に入るでしょ。」
ベーヤン「何!、買い忘れたの?」
榊原「いやいや置き忘れですよ。まあ嫁が関心を持って、それで日本語の説明文をタガログ語に翻訳して、どうやら元気になるからビタミン剤だと理解したんですね。そうすると嫁もバンバン飲んじゃうんですよ。一日5錠の飲んだけど効かないじゃんていうんですよ。私はひぇーーっ高い薬なのに、一日5回!!。気づいたときはシートが全部空になっていた。それから私も置き場を考えたんです。嫁に知られずに私がわかりやすい場所というと仕事のアトリエですよね。そのアトリエが仕事の情報やら、私の道楽やら、過去の仕事の残骸やら、そんなので混沌としているですよ。ここなら嫁でも解るまい。そう思って嫁に解らず私が取り出しやすいところにしまったんです。そしたら私がしまった場所を思い出せなくなって・・・」
べーヤン「つまり今晩やろうとしたら、鉄砲に弾が入ってなかったってわけだ。」
榊原「タマがなきゃ使えない筒ですからねぇー。でも結局日本へ来てからわかったんです。私の旅行用の洗面ポーチのなかにあったんです。」
「私も、あるよ。例えば健康保険証と診察券とジムのカードをまとめてセットにしてクリアファイルに挟んで自分でも解りそうな所においといた。1週間経ったらその場所がわからない。そんなわけで翠と家中探したけど、みつからない。だから健康保険証は再発行。そしたらデスク脇の小さな茶封筒に入っていた。クリアファイルに入れたと思ったのに、それ自体を忘れている。」
べーヤン「それは僕もある。つまり老化というよりは情報過多なんだよ。仕事、道楽、過去の記憶、それにPC関係の書類が加わると仕事場は混沌としてくるよ。だから念をおいて置き所を探したのに、それが自分でも解らなくなってしまった。自分で自分が騙されるというやつ!。」
「整理するためにデジタル化したのに・・・」
べーヤン「そうだよ。デジタル化するとPCの中のデジタル書類と紙の書類とで混沌としてくるもんね。そんで榊原さんは日本へ精力剤を買いに来たというわけだ!!!」
榊原「ハイハイ、追加分を調達しますぅー・・・。」
べーヤン「きっと上さんは寂しがっているぜ。男もつらいよ!、だな。」
榊原「多分一人で慰めているかな。」(笑)
・・・
また雪が降りだした。予報じゃ今晩は寒波が来ると言っていた。
ベーヤンがタクシーの手配をしにフロントへ出かけた。寒波が来ている小樽でスマホじゃタクシーなんか捕まらないからね。
今夜は吹雪くだろう。
突然ホテルの窓が白いモヤに包まれた。
雪を巻き上げた寒気が通り沿いに走ってきて、ゆき去る。
寒波の中の小樽だ。