浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

立ち位置のこと

2013-04-16 20:17:16 | 日記
 「遺稿集」の二校、そして書き上げた「解題」を印刷会社に渡したので、少し時間ができるようになった。夕方少しの時間畑に行くが、今日は午後2時頃から、じっくりと農作業に従事した。まさに晴耕雨読の日々。

 今日は『永山則夫 封印された鑑定記録』を読み終えることができた。よい本だった。

 少し時間ができたので、村上春樹の『海辺のカフカ』を図書館にリクエストした。その後は『1Q84』に挑戦しよう。最近また新刊を出したようだが、これもいつか読むことにしよう。

 さて、どうしたら鋭角的な切り込みができるか、について考えたい。

 まず、自らの立ち位置を決めることだ。いかなる立場でものを考えるか、である。見え方は、立場によって異なる。たとえばバスに乗っているとき、自転車に乗っているとき、車に乗っているとき、歩いているとき、同じ道を通っていても、風景は異なって見えるし、考え方も異なる。

 ボクは、いつも「底辺の視座」ということを語る。もっとも虐げられた人の眼から社会や政治を見ることが必要だと思う。社会問題についてどう考えていいかわからないというとき、果たして自分自身の立ち位置はしっかりしているのだろうか。フラフラとしているのではないか。

 たとえば、「満洲移民」について、ボクは書いたことがある。「満洲移民」をどう考えるか。その場合、別々の二つの眼からみる。一つは「満洲」という傀儡国家が「建国」される前から住んでいた中国人などの庶民、彼らは日本からの移民によって土地や家屋を接収されている。もう一つは、移民してきた日本人。彼らはどちらかというと貧農であった。日本の「満洲」侵略政策のある種の担い手として、日本から追い出され、そして戦争末期かれらは日本国家に棄てられた。日本人「満洲移民」は、二度にわたって棄てられた。

 これら二つの視座からみれば、「満洲移民」をどう考え叙述するかは明らかである。

 ジャーナリストの本多勝一が、『殺す側の論理と殺される側の論理』を書いている。本多はもちろん「殺される側」から視る。
 『本多勝一集』は、ジャーナリストをめざす者にはぜひ読んで欲しいと思う。ついでに、斉藤茂男の本も読んで欲しいと思う。本多は朝日新聞社が相対的によい時代の記者、斉藤茂男は共同通信の記者だった。斉藤はすでに亡くなっている。

 今日はこれまで。
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【本】堀川惠子『永山則夫 封印された鑑定記録』(岩波書店)

2013-04-16 13:01:16 | 日記
 著者、渾身の作だろう。堀川さんは、永山事件について書いてきた。前作も見事なものであるが、今回も、おそらく永山事件について書く最後の本だという気持ちがあったのだろう、素晴らしいとしかいいようがない。

 
 最近の刑事事件の裁判に於いて、被害者の応報的な気分感情、それに同情する世間の雰囲気により、厳罰化が進むだけではなく、なぜそのような犯行を起こしたのか、それを問う姿勢がきわめて弱くなっている。

 本書は、石川義博医師による鑑定書、それは永山少年の生育過程のみならず、彼の感情や意思、そういうものを十分に咀嚼し、この事件の背景を納得的に説明しているものであるが、そしてその鑑定書を書くために石川医師と永山則夫というひとりの少年の対話の記録としての膨大な録音テープ、そして堀川さんの鋭い問題意識とがうまい具合に融合して書かれたものだ。

 この本を読むことによって、なぜ永山があのような犯罪を起こしたのか、永山少年の生まれてから事件を起こすまでの短い永山少年にとっての生活、そしてそこで育まれた感情、意志を理解することができる。

 そして、家族の崩壊が叫ばれる中、家族の持つ意味というものをもう一度考えさせる内容となっている。

 石川医師の鑑定書、そして録音テープという「材料」を、永山少年の生の軌跡に織り込みながら、現代の世相に斬り込んでいく。

 裁判員裁判、そして応報的な感情が高まっている今、刑事事件の本質に迫る営為は今後もなされていかなければならない。そのための重要な一冊として、歴史に刻まれる本である。

 とてもよい本である。多くの方々に読んでもらいたいと思う。

 〈追加〉本書は、石川医師が永山則夫本人や母親、姉から聞いたこと、永山の裁判の時に兄の証言など、そして堀川さんがみずから調べたことを統合して、ほぼ時系列に叙述している。

 犯行に近づけば近づくほど追い込まれていく永山の精神状態を知るにつけ、読んでいてその陰惨さに心が重くなる。そして永山の家族の悲劇的なその後も記されていて、さらに気が重くなる。しかし、極度の貧困が家族に覆いかぶさる中で、いかなる事態が起きるか、きちんと知るべきだと思う。貧困が政策的につくり出されている中、貧困がいかに犯罪的な役割を果たすか。

 ボクはこの本に何も書き込まず、付箋も貼ることがなかった。だが、この本は持っていたい。そして少し時間をおいてからもう一度読まなければならないと思った。

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