浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】鈴木正『倚りかからぬ思想』(同時代社)

2013-04-18 09:31:59 | 日記
 来日しているアウンサンスーチーさんのインタビューを聴いていたら、スーチーさんの行動原理は、フランクルの『夜と霧』に記されているものとほぼ同じであった。自らの個人的な生活ではなく、自らに社会や歴史から要請されたことに、絶望することなく全力で取り組む。「やりたいことではなく、すべきことをする」、「困難に遭遇したときには、過去の楽しかったことを思いだす、その思い出が力を与えてくれる」、「過去は、よりよい現在、よりよい未来をつくる力となる」などと応えていた。


 さて鈴木正さん。思想史家といえばよいのだろうか、狩野亨吉などの研究家である。年齢をみたら80代半ばである。もうそんな年になったのかと驚いた。我が家にも鈴木さんの本が何冊かある。

 ユニークな思想史家であって、まさに「倚りかからない」思想を紡いできた人である。なによりも、思想というものを生活との関連で捉えようとした。

 その鈴木さんが、最近書かれたものをまとめたのがこの本である。線こそ引かなかったが、付箋をたくさんつけた。

 たとえば、「理論は実践的、実践は理論的に」。「支配者は裏切る」。とくに後者なんか、最後の最後まで一億玉砕を叫んでいたら、ウラでは支配者たちが降伏の裏工作に励んでいたり、また「鬼畜米英」を叫んでいた支配者たちが、アメリカと手を組みアメリカは素晴らしい、などとのたまわる。

 庶民は、躍らされる。そうならないようにしようというのが、「戦後」のスタートであったはずだが、今や昔通り、庶民は躍らされるようになってしまった。

 日常生活と、最近の政治の動きと、そして思想史とが、うまい具合に調和されながら、筋を通した主張が散りばめられている本が、これだ。

 ただし、著者の責任ではないが、校正ミスが多い。これは出版元の同時代社の力量の問題。
コメント
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