安倍内閣が進める集団的自衛権容認の解釈改憲と「参戦法案」は憲法違反であると、ほとんどの憲法学者が答えたという。
今日の『中日新聞』一面トップ。当然の結果である。しかし、違憲とした学者のうち77人が「匿名」を希望したという。憲法には「表現の自由」がある。大学に対する統制が強まっている中、怖じ気づいている憲法学者の姿が目に浮かぶ。また木村草太というテレビや雑誌でおかしなことを言っている人の名がなかった。なぜメディアが彼をつかっているのか、メディアの姿勢がわかるというものだ。特に「報道ステーション」。
安保法案 憲法学者9割「違憲」 本紙調査に204人回答
2015年7月9日 07時04分
本紙は、他国を武力で守る集団的自衛権行使を柱とする安全保障関連法案に関し、全国の大学で憲法を教える教授ら三百二十八人を対象に、法案の合憲性などを尋ねるアンケートを実施した。回答した二百四人(回答率62%)のうち、法案を「憲法違反」(違憲)としたのは、六月四日の衆院憲法審査会に自民党推薦で出席した長谷部恭男・早稲田大教授をはじめ、青井未帆・学習院大教授、愛敬(あいきょう)浩二・名古屋大教授ら百八十四人。回答者の90%に上り、憲法学者の圧倒的多数が違憲と考えている現状が鮮明になった。
「合憲」は百地(ももち)章・日本大教授ら七人(3%)にとどまった。「合憲・違憲を議論できない」などとして、「その他」と回答した人も十三人(6%)いた。違憲と答えた人は、回答しなかった人も含めた総数三百二十八人でみても過半数を占めた。
違憲と回答した人の自由記述による理由では、集団的自衛権の行使容認が憲法を逸脱していることに言及した人が最も多く、六割を超えた。政府は安保法案で認めた集団的自衛権は「限定的にとどまる」と合憲性を主張する。だが「たとえ限定的なものであれ、改憲しない限り不可能」(阪口正二郎・一橋大教授)と、限定容認を含め否定する意見も多かった。
手続き上の問題や、集団的自衛権行使の判断基準となる「武力行使の新三要件」が明確でないことを理由に挙げた人も、それぞれ二十人程度いた。
手続きに関しては、安倍政権が昨年七月、閣議決定だけで憲法解釈を変更したことに関し「一内閣の閣議決定で変更した手法に問題がある」(高橋利安・広島修道大教授)との批判が目立った。
新三要件には「要件が不明確で、限定は事実上ないに等しい」(木下昌彦・神戸大准教授)といった疑念が示された。
一方、安保法案を「合憲」とした人は「個別的か、集団的かを憲法判断の基準とすることは自衛権保持という観点からは意味がない」(木原淳・富山大教授)などを理由に挙げた。
ただ違憲・合憲双方の回答者から「法制の合憲性が学者の意見の多寡で決まるわけではない」とする意見が複数あった。
九条改憲の是非については、75%の百五十三人が「改正すべきではない」と回答。「改正すべきだ」は十七人だった。「その他」や無回答が三十四人いた。
安保法案に対する違憲批判は、衆院憲法審で長谷部氏ら三人の憲法学者全員が違憲と表明して以降、全国的に広がっている。政府は当初「違憲でないという憲法学者もたくさんいる」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)などと反論していた。
◆「立憲主義の危機」強い懸念
「今回の論議は単なる安全保障政策の憲法適合性の問題ではない。現政権の立憲主義への挑戦、憲法の否定ととらえねばならない」
アンケートの自由記述では、桐蔭横浜大の森保憲教授がこう記したように、安倍政権が憲法解釈を変更し、安全保障関連法案の成立を目指していることに「立憲主義の危機だ」と懸念の声が相次いだ。
立憲主義は国民の権利や自由を守るため、憲法によって国家権力の暴走を縛るという考え方で、民主的な憲法を持つ世界各国で共有する。森氏は「『縛られている者』が自らを縛る鎖を緩和することは、明らかに立憲主義に反する」と政権による解釈変更を批判。富山大の宮井清暢(きよのぶ)教授は「安倍政権の憲法無視(敵視)は、過去のどの政権にも比しえない異常なレベル」と断じた。
安倍政権の姿勢に対しても、独協大の右崎正博教授は「安倍政権や自民党が数の力を背景に、自分の意見だけを一方的にまくしたて、他の言い分は聞かずに無視する態度は大いに疑問」と指摘。名古屋大の本秀紀教授は「立憲主義や民主主義と実質的に敵対する国政運営は、国論を一色に染め上げて侵略戦争に突入した戦前を想起させる」と危機感を強める。
龍谷大の丹羽徹教授は「安倍内閣は、対外的には『法の支配』の重要さを言うが、国内では憲法を頂点とする法に対する蔑視が甚だしい」とした上、「労働法制、社会保障法制、教育法制の多くは憲法が保障する権利を侵害する方向で改正が行われている」と警鐘を鳴らす。
山形大の今野健一教授はこう呼び掛けた。「国民の人権を守るための憲法を語る言葉を、権力担当者に独占させてはならない。主権者たる国民が憲法を積極的に語ることこそが、『憲法を国民の手に取り戻す』ことにつながる」 (鷲野史彦)