都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「金刀比羅宮 書院の美」 東京藝術大学大学美術館
東京藝術大学大学美術館(台東区上野公園12-8)
「金刀比羅宮 書院の美」
7/7-9/9
「こんぴらさん」こと香川・金刀比羅宮の書院襖絵が、そのままそっくり上野へとやって来ました。藝大美術館で開催中の「金刀比羅宮 書院の美」展です。
この展覧会で見るべきなのは、言うまでもなく応挙、若冲らの見事な襖絵ではありますが、私が強く感心したのはそれらよりも工夫された展示自体にあったかもしれません。ズバリ今回の目玉は、金刀比羅宮の表書院、及び奥書院を再現した展示の形態です。ともすれば手狭な印象もある三階のスペースを無駄なく用い、この門外不出とも言える金刀比羅宮のお宝を、実に臨場感のある形で見せることに成功しています。とりわけ岸岱、及び若冲の並ぶ奥書院の空間は一つの優れたインスタレーションです。残念ながら、それぞれのスペースの入口に木の柵があり、若冲の「花丸図」を除いては遠目で作品を眺める形となっていましたが、これは例えばプライス展の「光の演出」のような、新しい展示のあり方を示したものでもあったのではないでしょうか。またこの空間をつくるために用いられた複製(壁画は移動出来ません。その部分は全て複製が展示されています。)も、一瞥しただけでは本物と見間違うほど精巧に出来ていました。注目の「花丸図」では金の発色にやや難があるように見えましたが、200を超える切花を6畳間に散りばめたという、若冲ならではの濃密な空間を楽しむには最適な展示方法だったと思います。
手前の表書院では、作品を支える白い鉄板やフレームに無機質すぎる嫌いがありましたが、さすがに30畳の大広間をそのまま再現した「虎の間」の迫力は圧倒的でした。ここでは有名な「水呑みの虎」をはじめとする、お馴染みの猫のような虎も魅力的ですが、この展示にて見えてくるのは応挙の優れた空間構成力です。正面の二つの角の部分に見る大岩のような表現が、この空間全体を外から内へと、つまりはモチーフが見る側の方へと迫るように仕立てられています。(結果、虎の存在感が増すことにも繋がります。)またその一方の「竹林七賢図」では、遠近感に長けた竹の描写が奥行きを与え、内から外へと広がり行くような空間を実現していました。そしてそのさらに外に浮かび上がる「瀑布古松図」が、竹林図を含めた全体を見下ろすように力強く描かれているのです。もちろん障壁画である「瀑布古松図」は複製に過ぎませんが、竹林の背景にそびえる滝の壮大さはこの展示ではないと味わえないのではないでしょうか。見事の一言につきます。
展示の最後には、伝永徳の「富士山杉樹図屏風」が待ち構えていました。富士山の山頂が屏風の端に付いているという驚くべき構図をとっていますが、下から上へと燃え盛るような杉林は逞しく、まるでクレヨンを塗ったような質感の葉も意外なほど精緻に描かれています。これを永徳の作とするのは直感的に難しいようにも感じますが、作者云々の問題以前に強いインパクトを与えてくれる作品です。
この日は天候が不安定だったからでしょうか。日曜日にも関わらず、会場にはかなりの余裕がありました。もしかすると、当初予想されていたほどには混雑していないのかもしれません。
9月9日までの開催です。(7/29)
「金刀比羅宮 書院の美」
7/7-9/9
「こんぴらさん」こと香川・金刀比羅宮の書院襖絵が、そのままそっくり上野へとやって来ました。藝大美術館で開催中の「金刀比羅宮 書院の美」展です。
この展覧会で見るべきなのは、言うまでもなく応挙、若冲らの見事な襖絵ではありますが、私が強く感心したのはそれらよりも工夫された展示自体にあったかもしれません。ズバリ今回の目玉は、金刀比羅宮の表書院、及び奥書院を再現した展示の形態です。ともすれば手狭な印象もある三階のスペースを無駄なく用い、この門外不出とも言える金刀比羅宮のお宝を、実に臨場感のある形で見せることに成功しています。とりわけ岸岱、及び若冲の並ぶ奥書院の空間は一つの優れたインスタレーションです。残念ながら、それぞれのスペースの入口に木の柵があり、若冲の「花丸図」を除いては遠目で作品を眺める形となっていましたが、これは例えばプライス展の「光の演出」のような、新しい展示のあり方を示したものでもあったのではないでしょうか。またこの空間をつくるために用いられた複製(壁画は移動出来ません。その部分は全て複製が展示されています。)も、一瞥しただけでは本物と見間違うほど精巧に出来ていました。注目の「花丸図」では金の発色にやや難があるように見えましたが、200を超える切花を6畳間に散りばめたという、若冲ならではの濃密な空間を楽しむには最適な展示方法だったと思います。
手前の表書院では、作品を支える白い鉄板やフレームに無機質すぎる嫌いがありましたが、さすがに30畳の大広間をそのまま再現した「虎の間」の迫力は圧倒的でした。ここでは有名な「水呑みの虎」をはじめとする、お馴染みの猫のような虎も魅力的ですが、この展示にて見えてくるのは応挙の優れた空間構成力です。正面の二つの角の部分に見る大岩のような表現が、この空間全体を外から内へと、つまりはモチーフが見る側の方へと迫るように仕立てられています。(結果、虎の存在感が増すことにも繋がります。)またその一方の「竹林七賢図」では、遠近感に長けた竹の描写が奥行きを与え、内から外へと広がり行くような空間を実現していました。そしてそのさらに外に浮かび上がる「瀑布古松図」が、竹林図を含めた全体を見下ろすように力強く描かれているのです。もちろん障壁画である「瀑布古松図」は複製に過ぎませんが、竹林の背景にそびえる滝の壮大さはこの展示ではないと味わえないのではないでしょうか。見事の一言につきます。
展示の最後には、伝永徳の「富士山杉樹図屏風」が待ち構えていました。富士山の山頂が屏風の端に付いているという驚くべき構図をとっていますが、下から上へと燃え盛るような杉林は逞しく、まるでクレヨンを塗ったような質感の葉も意外なほど精緻に描かれています。これを永徳の作とするのは直感的に難しいようにも感じますが、作者云々の問題以前に強いインパクトを与えてくれる作品です。
この日は天候が不安定だったからでしょうか。日曜日にも関わらず、会場にはかなりの余裕がありました。もしかすると、当初予想されていたほどには混雑していないのかもしれません。
9月9日までの開催です。(7/29)
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