「パルマ - イタリア美術、もう一つの都 - 」 国立西洋美術館(Vol.1)

国立西洋美術館台東区上野公園7-7
「パルマ - イタリア美術、もう一つの都 - 」
5/29-8/26



ルネサンス期より16、17世紀までのいわゆる「パルマ派」の系譜を、全100点の作品にて概観します。「パルマ派」自体の知名度はあまり高いものではありませんが、コレッジョやパルミジャーノ、そして今回の目玉でもあるスケドーニらの名作はしっかり揃っていました。見応えは十分です。

展覧会の構成は以下の通りです。

1. 15世紀から16世紀のパルマ - 「地方」の画家と地元の対応
2. コレッジョとパルミジャーノの季節
3. ファルネーゼ家の公爵たち
4. 聖と俗の絵画 - 「マニエーラ」の勝利
5. バロックへ - カラッチ、スケドーニ、ランフランコ
6. 素描および版画

展示のハイライトはやはりコレッジョ、パルミジャーノ、スケドーニの揃う「2」と「5」のセクションかと思いますが、彼ら三者の版画を比較して楽しめる「6」、及び北イタリアへ伝播してバロックへの橋渡しを務めたマニエリズモの絵画の並ぶ「4」も充実していました。ちなみに「3」のファルネーゼ家とは、この地方、つまりはパルマ・ピアチェンツァ公国を1545年より支配していた一族で、特に第3代公爵のアレッサンドロはスペイン統治下のネーデルランド総督としても活躍し、多くのスペイン絵画を北イタリアへもたらしていたのだそうです。展示では、その公爵の姿を勇壮な肖像画や甲冑などで楽しむことが出来ます。パルマの統治史と、それに伴って変化していく絵画史の交わるセクションです。



ルネサンス期のパルマの黄金時代を築いたという(公式HPより一部引用。)コレッジョとパルミジャーノでは、作風に優美な趣きを見せる前者により惹かれるものを感じました。まずは一推しは「階段の聖母」(1522-24年頃)です。丸みを帯びた目鼻立ちの印象的なマリアに抱かれているのは、まるで手足をばたつかせるようにしておさまるキリストでした。全身でキリストを包み込むような仕草を見せるマリアの甘美な表情に対し、キリストは随分と無邪気な面持ちで、その丸々とした足を窮屈そうに折り曲げています。その対比も興味深い作品です。



「幼児キリストを礼拝する聖母」(1525-26年頃)も印象的です。円柱から幼きキリストへと差し込む仄かな光りに包まれるのは、驚くほど白く、また透き通るような手の美しいマリアの姿でした。くっきりと高く描かれた鼻は気品すら示し、慈愛に満ちた顔の表情と美しいコントラストを織りなしています。また背景へ広がる長閑な描写にも目を向けたいところです。風に揺れるかのようにして靡く一際高い木から、朱の交じる水色の空が絶妙なグラデーションを描いています。



パルミジャーノでは、「ルクレティア」(1538-40)がその主題も借りて劇的です。生々しいほど艶やかな胸元とそこへ突き刺さる黒光りしたナイフ、または白目を向いて何かを叫ぶかのように口を開く、耳まで赤らんだ情熱的な顔、さらには細やかに描き分けられた装飾品と結われた金髪の全てが大変に高い質感をもって表現されています。そしてそれらは、深い漆黒の闇より輝かしい光によって浮き上がっているのです。これは否応なしに引き込まれます。

縦275、横120センチにもおよぶ大作、「聖チェチリア」(1522)も充実していました。左手に楽器を、また振り上げた右手には弦を携える音楽の守護聖人チェチリアが、等身大をゆうに越える大きさでありながらも隙のないタッチで描かれています。ここにいるチェチリアは、蒸し焼きを生き長らえ、首を切り離すことすら出来なかったという、半ば恐ろしいほどの生命力を持った一人の女性のエピソードを鑑みるのに相応しい姿です。大柄で隆々とした体つきにその逞しさを、また見開いた目には壮絶な最期でも動じることのなかった意思の強さを見る思いがしました。



さて「マニエーラ」を紹介する4番目のセクションでは、異時同図法とも言える技法を駆使したミモラ(?)の「サビニ族の女たちの略奪」(1570年頃)が強烈な印象を与えてくれます。古代ローマの始祖、伝説のロムルスによるサビニ侵攻、および和平の経緯が、一種のSF、もしくはスペクタクル映画のような体裁でダイナミックに描かれていました。画面中央にて赤ん坊を差し出し、馬に乗ったローマ人たちを止めようとしているのがサビニの女性たちでしょうか。そしてその一方、例えば画面左手では、男たちによって数多くの女性たちが奪われています。中央奥の塔のような建物を核として三分割したような構図感、もしくはやや奇異な遠近法による鳥瞰的な描写も心に残りました。出来れば、その描かれた場面と時間を整理しながら楽しみたい作品です。

少し長くなりました。次回「Vol.2」のエントリでは、セクション「5」のバロックより、特に静かな感動を与えてくれたスケドーニの作品について触れたいと思います。
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