「山種コレクション名品選 後期展示」 山種美術館

山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
「山種コレクション名品選 後期展示」
6/6-7/16(会期終了)



「炎舞」との対面がようやく叶いました。先日まで山種美術館で開催されていた「山種コレクション名品選」の後期展示です。既に会期を終えた展覧会なので、ここではともかくも印象的だった速水御舟の作品だけについて触れたいと思います。



まずはその注目の「炎舞」です。図形的な味わいすら感じる炎は煌煌と燃え上がり、そこへ宝石のように瞬く蛾がまさに舞い踊るように飛び交っています。そして炎の先でとぐろを巻く煙は火の粉を散らし、蛾の散らす羽の粉と渾然一体となって混じり合っていました。また、闇に突如赤々と湧き上がる炎の描写は神々しささえ感じるほど静謐ですが、蛾の舞う様子は何やら祝祭的な雰囲気も漂わせています。ちなみに展示についてですが、普段、何かと難を感じる山種美術館としては、照明や演出に最大限の配慮も払われていたとも思います。もちろんもっと「見せる」ことは可能でしょうが、ここは足を止め、不思議と冷ややかさえ見る炎の舞いをじっくりと楽しみました。炎と煙に包まれながら消えては生まれる蛾、つまりは生命の流転を見るような作品でもあります。



前期の「名樹散椿」の味わいにも似た「翠苔緑芝」も圧倒的です。眩しいほど光る金地に配されているのは、ほぼ抽象的な芝や木、それに紫陽花などです。左隻ではウサギが可愛らしく飛び跳ねてくつろぎ、また右隻では絶妙な奥行き感を見せる木々の元にて黒猫が何とも得意気に寝そべっています。紫陽花は思いの外絵具の質感が重く、ややベタッとした感触も見受けられましたが、この一般的な日本画を超越したような構図と描写には改めて驚かされます。「名樹散椿」の感想でも触れましたが、やはりこれは日本のルソーです。

 

凛と咲く「黒桔梗」にも惹かれました。顔料の滲み出す茎の瑞々しい描写とは対照的に、花は透明感に溢れ、まるで光を放っているかのように輝いています。また「紅梅白梅」も、その鋭角的な線の生み出すシャープな味わいが独特です。空間を切り裂くようにのびる枝は抽象的で、そこに写実に長けた紅白の梅がポツポツと咲いています。宙に浮かぶ細い三日月や二幅に連なる黒の闇が、空間を上手く演出していました。

数年前に見逃した御舟展を少しでも取り戻すことが出来たかもしれません。速水御舟が、私の中でも特別な芸術家だということを改めて確認した展覧会だったように思います。(7/14)

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