「ユトリロ展」 千葉県立美術館

千葉県立美術館千葉市中央区中央港1-10-1
「ユトリロ展 - モンマルトルの詩情 - 」
7/14-8/26



実を言えばユトリロは苦手な画家の一人ですが、千葉県立美術館の久々の大規模展とのことで行ってみました。三鷹市民ギャラリーより巡回中のユトリロの回顧展です。初期より晩年の油彩画(一部グワッシュ)計82点と、ユトリロの使っていた筆や絵具、それに道具袋などが紹介されています。



展示ではユトリロの画業を「白の時代」と「色彩の時代」、それに「晩年の時代」という極めて簡潔な括りで追っていましたが、その中では言うまでもなく「白の時代」が優れています。お馴染みの漆喰の壁を表現するため、鳩の糞や卵の殻、それに砂などを混ぜ合わせて出来た絵具の質感は力強く、それがこの時代に独特な荒々しくも寒々しいタッチと見事に調和していました。初期作の「ラパン・アジル」(1912年頃)における色の表現は絶妙です。道路のくすんだ黄土色は沈み込むように深く、また右手へ迫る壁のメタリックな感覚や、正面中央の建物の壁面におけるキャンバスを削り取るかのように深いタッチなどは、まず晩年の作品に見ることが出来ません。このややすさんだ感触こそ、まさにユトリロを見る醍醐味ではないでしょうか。



「シャップ通り」(1910年頃)も、この時代に特有なマチエールが効果的な作品です。手前から奥へ一本の道がのびゆくという、ユトリロの得意とする構図ではありますが、視点をやや上に置き、正面の階段と聖堂へと連なる建物群を見通し良く描いています。そしてやや歪んだ窓の並ぶ、長い年月を感じさせる古びた建物と、雨の降った後なのかまだ濡れているようにも見える道路は、どこか煤けたパリの情感を巧みに表現していました。それに所々、点描で示される赤や黄色などが絵の良いアクセントにもなっています。また上空を覆う一面の雲も何やら刹那的です。「色彩の時代」に見る抜けるような青空は、当然の如くここに表現されることがありません。



白の時代を過ぎたユトリロになかなか魅力を見出せませんが、グワッシュの「クリスマスのもみの木」(1928)などは面白い作品です。即興的なタッチによるもみの木の質感は軽やかですが、例えば瓶や鉢に見る線はどこかビュフェをを見るように険しく、背景の白も初期作の漆喰を思わせるような豊かな味わいを感じさせていました。

もう一歩、波瀾に富んだユトリロの生涯に迫るような展示であればと思いましたが、初めにも触れた絵具や道具袋の展示は、彼の制作の一端を理解するのに役立ちます。また、展示作に「個人蔵」が多いのもこの展覧会の特徴です。約半数ほどがそれに該当しますが、全作品のうち32点が日本初公開であるという点と何か関係しているのかもしれません。

殆ど宝の持ち腐れ感もある千葉県立美術館の広大な展示室を使った展覧会です。例えば工夫された照明など、いわゆる作品を演出して見せる部分は皆無ですが、ともかくは広々としたスペースでゆったりと楽しむことは出来ます。

アクセスは千葉みなと駅(京葉線・千葉モノレール)が便利です。駅からは少し歩きますが、千葉ポートタワーを真向かいに、海風を感じながら並木道を散歩するのは悪くないと思います。

8月26日までの開催です。(7/22)
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