「江戸の粋」 大倉集古館

大倉集古館港区虎ノ門2-10-3 ホテルオークラ東京本館正門前)
「江戸の粋」
6/2-7/27



若冲、広重、狩野派、それに鍋島焼や江戸箪笥までが出品されています。館蔵品にて構成された大倉集古館の「江戸の粋」展です。



まずこの展覧会で最も嬉しかったのは、長さ10メートルを越える伊藤若冲の拓版画「乗興舟」(1767)が全て展示されていたことでした。観月橋(京都・伏見)より天満橋(大阪)へ至る約40キロの淀川の光景を、今で言えばちょうど京阪側より阪急・JR側を望んだ構図で表現しています。実際に若冲は、相国寺の僧大典と川下りをした際にこれを制作したそうですが、その旅情は画中に漂うどこかほのぼのとした雰囲気に反映しているのかもしれません。立ち並ぶ家々とほぼ同じ大きさにて描かれた牛や人物が、何やら愛くるしい出で立ちで佇んでいます。また特に印象的だったのは、立派な天守閣のそびえる淀城でした。今でこそ石垣や堀が僅かに残るばかりですが、往時は水運の拠点でもあるこの地が重要視されていたのでしょう。ちなみに淀の隣、八幡市駅よりのびるケーブル線が開通したのは、この作品の描かれた159年後のことです。もちろんここでは社と塔の建つ小高い山だけが表現されています。



島原の乱以降、約200年ほど平和の続いた江戸時代、本来なら鎧などの武具を手がける甲冑師も、置物や装飾品などを制作していました。今回の展示では、その中より「鯉」や「蝶」などの置物が紹介されています。特に小型の「蟹」や「蟷螂」は必見です。細かな装飾にも長け、さながら最近のミニフィギュア制作の原点を見る思いさえします。ちなみにこれらの品々は、後に殆ど海外へ流失してしまったそうです。また工芸品では、巻貝などをさながら宝石のように散りばめてつくった「柳螺鈿手箪笥」(18世紀)なども充実していました。これらは「青貝細工」と呼ばれているそうですが、風にそよぐ柳とともに、それを支える土坡までもが貝で表現されています。

「乗興舟」と同じく川の岸辺を鳥瞰的に描いたものとしては、鶴岡蘆水の「両岸一覧」(1781)も面白い作品です。この両岸とは隅田川のことで、東巻では千住から永代橋、また今回展示されている西巻では真崎稲荷(現在の荒川区南千住3丁目)から佃島までが描かれています。細部の描写などはやや拙い部分もありましたが、独特の遠近法による、まるで内側から見上げるようにして描いた橋脚が興味深く感じました。また、打ち上げ花火の下で浮かぶたくさんの屋形船なども、今と殆ど変わらぬ夏の風情を伝えてくれます。ちなみに隅田川関連では、狩野洞春の「蔦之細道・隅田川図」(18世紀)も佳品です。伊勢物語の東下りの二場面を表現した作品(二幅)ですが、特に霧より浮かび上がるような隅田川は情緒に満ちあふれています。小さくとまる水鳥も良いアクセントを与えていました。

展示の初めでは宝永期の江戸の古地図、「宝永江都図鑑」(1707)が紹介されていました。それによるとホテルオークラを含むこの大倉集古館一帯は、かつて7代にわたって川越城主を務めた、松平大和守の屋敷であったそうです。それはさらにこのこの一帯を拡大した「切絵図 - 赤坂絵図」(1850)でも確認することが出来ます。



いわゆる華のある展覧会ではないかもしれませんが、大倉のコレクションの質の高さには改めて感心させられます。普賢様もまた戻って来ていらっしゃいました。

今月27日までの開催です。(7/15)
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