「ヘンリー・ダーガー - 夢の楽園 - 」 原美術館

原美術館品川区北品川4-7-25
「ヘンリー・ダーガー - 少女たちの戦いの物語 夢の楽園 - 」
4/14-7/16



前々から見たいと思っていた展覧会でしたが、会期末になってようやく行くことが出来ました。その一生涯を「非現実の王国」をはじめとする独自の物語世界の『構築』に傾けた、ヘンリー・ダーガー(1892-1973)の回顧展です。初期コラージュから戦争や楽園イメージのドローイングなど約50点にて、ダーガーの残した膨大な物語の一端を概観します。

まずは、一階入口すぐの所に展示されていたコラージュ、「The Battle of Calverhine」(1929)からして圧倒的です。雑誌や新聞より切り抜かれた少女の写真やイラストを執拗に貼り合わせ、茶色にくすんだ油紙の巨大な画面へさながら少女戦争絵巻とでも言うような一大スペクタクルを展開させています。不気味な微笑みをたたえた少女や、銃を構えて勇ましく行進する兵士の報道写真などの交錯する様子を見ると、ここにはまさしく後に絵画として展開されたダーガーの物語世界のエッセンスが詰まっているように感じられました。19歳の頃より始められたというダーガーの物語制作が、いよいよ絵画として表現されるのはもう間もなくのことなのです。

1930年代より絵画化された、「非現実の王国として知られている国の、ヴィヴィアンの少女たちの物語。あるいは子供奴隷の反乱が引き起こした、グランデーコ=アンジェリニアン戦争の嵐の物語」が展示の核心です。ここでは先のコラージュでも登場した5歳から7歳程度の少女が、彼女らを狩ろうとせんばかりに攻撃する兵士たちと逞しく闘っていました。少女たちは時に全裸で、また男性器をつけているという倒錯的な姿をしていますが、さながらクローンのように増殖する彼女たちの群れはいつしか戦いを制覇し、次の「夢の楽園」へと進んでいきます。そこでは多くの少女が、花と蝶に包まれた『楽園』にて何やら神秘的とさえ感じる一種の集団生活を行っていました。花には無数のドットがのぞき、体だけは大きく描かれながらも決して成長はしない少女たちが、無邪気に座ったり笑ったりする光景が描かれています。

戦争も楽園の光景も、終始、ほぼ同じように用いられるパステル調の色彩によって淡くまとめられています。つまりは絵本のような、一見優し気にも見える表現の中に、殺戮と平和がそれこそ平等な形で描かれているわけです。ダーガーの中では死の世界さえもパステルカラーの中にあります。だからこそ不気味な感触がこちらへ迫り来るのかもしれません。

ダーガーがいわゆるアウトサーダー・アートの作家として位置付けられていることに異論を挟むつもりはありませんが、この閉ざされた物語絵巻へ傾けられた(と言うよりも、むしろ逃れられなかったとするべきなのでしょう。)制作の痕跡は、彼がそのような画家であると知らなくても『見せる力』を感じさせるものだと思います。この種のアートに見る特徴こそ確認出来るにしろ、そもそも『楽園』などに普遍性を求める必要はありません。ダーガーの『夢』が作品という形をとって我々の現実になったことに意味があるのです。

ターガーの描いた残虐なシーンがほぼカットされていたのが残念でしたが(*1)、また別の場所で補完されるのを気長に待ちたいと思います。

「ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で/作品社」

明日までの開催です。今更ですがおすすめします。(7/14)

*1 拷問や殺戮といった残酷な情景も数多く描いたダーガーですが、本展は、無邪気に遊ぶ楽園のイメージを中心に構成します。(展覧会パンフレットより。)
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