「川瀬巴水 木版画展」 礫川浮世絵美術館

礫川浮世絵美術館文京区小石川1-2-3 小石川春日ビル5F)
「土井コレクション 川瀬巴水 木版画展」
9/1-25



点数こそ望めませんが、巴水ファンならずともぜひおすすめしたい展覧会です。昭和の広重とも称される風景版画家、川瀬巴水(1883-1957)の木版画展へ行ってきました。





主に展示されているのは、巴水の代表作としても知られる「東京二十景」(1925-30)シリーズです。大正後期より昭和に差し掛かった東京の光景を、まさにロマン溢れる詩心で美しくまとめあげています。藍色にも深いお馴染みの『巴水ブルー』の見事な質感はもちろんのこと、一見、ごく一般的なようで、実は例えば電柱の縦のラインなどを画面へリズミカルに潜ませる冴えた構図など、どれも巴水の魅力を存分に楽しめるものばかりでした。また、巴水版画でも特に有名な「馬込の月」も、この「東京二十景」のうちの一つです。その他、降りしきる雨が橋上を幻想的に洗う「新大橋」、または一匹の子犬の向こうに汽船をのぞむ「明石町の雨後」なども必見の作品と言えるでしょう。お気に入りの一点を探すのもまた面白いかもしれません。



興味深く感じたのは、ほぼ同じモチーフの「上野清水堂」の二点の作品でした。これは一点がピンク色の桜(ここに挙げた画像の作品です。)を、またもう一方では桜を白に変えて描いているものですが、ともに艶やかさと慎ましさを見るような桜の美感が味わい深く表現されています。ちなみにこの二点は「変り摺」と呼ばれる作品で、おそらくは前者が先に摺られ、その後、色を変えたもう一点が作られたのではないかということでした。版画ならではの変わり種です。

作品だけではなく、関連の資料も充実しています。最近のものでは、2003年発行の英語版の画集などが出ていましたが、1923年、巴水が初めてアメリカで伊東深水とともに紹介されたという「International Studio」誌はかなり貴重なものだと思います。その他、オークションカタログなど、英語の資料が多いのも巴水ならではと言えるのかもしれません。相変わらず海外での評価が先行しています。

hanga.com(東京二十景の大半の画像が掲載されています。)

もう一つ、この展覧会で重要な点は、会期中の毎週土日に、展示作品を所有する土井利一氏本人が会場にいらっしゃることです。ちらしにも「皆様の質問に直接お答えします。」とありましたが、実際にもこちらの素人な質問に実に丁寧に答えて下さいました。(非常に気さくな方です。)また土井氏が作成された、巴水の「木版画版元別作品一覧表」のコピーも有用です。各作品の版元はもちろん、その出版年から摺り師までが掲載されています。

手狭ながらも静かな空間でじっくりと巴水に酔える展覧会です。今月25日まで開催されています。(9/1)

*関連エントリ
「新版画と川瀬巴水の魅力」 ニューオータニ美術館(昨年、夏に開催された巴水の講演会の記録です。)
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