「京都五山 禅の文化展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「京都五山 禅の文化展」
7/31-9/9(会期終了)

しばらく前に一度拝見し、感想も書けずにそのままにしていたのですが、先日有り難くもチケットをいただけたので再度挑戦してくることにしました。足利義満の没後600年を記念して開催された「京都五山 禅の文化展」です。



もし「難易度」というものが展覧会にあるとするならば、私の無知を棚に上げておくとしても今回は間違いなく最上級のAだと思います。資料的価値の問題はさておき、禅僧の座像や肖像画を見ても、率直に申し上げて何ら感ずるものがありません。というわけで、今回楽しめたのはズバリ、絵と詩を組み合わせたという詩画軸、ようは絵そのものでした。これなら讃が全く読めなくとも、何とか自分の感性だけで太刀打ち出来るものがあります。



詩画軸の出ているのは主に第4章「五山の学芸」でしたが、まず印象に残ったのは伝周文の「竹斎読書図」(15世紀)でした。上部は殆どが讃で占められていますが、下部に遠近感にも長けた山水の光景が美しく表現されています。また一見、即興的な画風ではあるものの、良く目を凝らして見ると湖上には小舟も浮かび、人々の生活が確かに記されていました。ちなみにタイトルに「読書図」とありましたが、それはやはり岩山の東屋での光景を指すのでしょうか。人が本を読んでいる様を微かに見ることが出来ます。



梅を描いたものに二点、対照的ながらも佳い作品がありました。それは伝如拙の「墨梅図」(14世紀)と、物外の同じく「墨梅図」(15世紀)です。前者は梅の枝が、まるで風に靡くかのように上から垂れていますが、後者は波のように渦を巻く梅が力強く上へと伸びています。また物外では、紅白梅を墨の濃淡、つまりは白には墨を置かず、紅には墨を配して描き分けるというその技法も興味深く感じました。水墨の陰影が紅白を示唆しているわけです。

仏画、仏像の並ぶ第5章では、吉山明兆の二点の「白衣観音図」を挙げたいと思います。これは明兆の若い頃と、年代の確定した後の時期による同じ画題をとる作品ですが、何やら足を曲げ、岩山に寛ぐかのようにして鎮座する観音様がとても流麗に描かれていました。(まるで西洋画にありそうな一ポーズです。)また、後期の作品では、衣の部分の白が実に艶やかに彩色されています。不謹慎かもしれませんが、若干のエロスも感じる仏様です。

一点一点に付けられたキャプション、または非常に分厚く充実した図録など、展覧会自体はとても充実、または丁寧に構成されていたと思います。(ただしパンフレット表紙のセンスはどうかと感じますが…。)その上で欲を申せば、私のような初心者向きに、例えばレオナルド展であったようなビジュアルの解説などがあればなお良かったかもしれません。これほど敷居の高さを感じた展覧会も久しぶりでした。

熱心にご覧になられている方も多くて驚きました。禅はこれほど一般的だったとは知りません。

東博での会期は既に終えています。来年元日より、九州国立博物館へ巡回するそうです。(9/8)
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