「磯辺行久 SUMMER HAPPENING」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「磯辺行久 SUMMER HAPPENING」
7/28-9/30



美術家、または環境計画家(公式HPより。)としても活動する磯辺行久(1932~)の業績を紹介する展覧会です。共催のジブリ(男鹿和雄展)の影に隠れて全くと言っていいほど目立っていませんが、一人のアーティストの軌跡を見るには十分な内容でした。



まずは失礼ながら磯辺行久とは何ぞやということですが、彼は近年、主に越後妻有のトリエンナーレなどに参加し、地域コミュニティや自然環境を主題したいわゆる「ランド・アート」を展開しているアーティストの一人だそうです。上にも記した「環境計画家」というのが、どうも漠然とした、何かよく分からないような印象も与えますが、彼が越後妻有で手がけている仕事を見ると、その一片を感じ取れるような気がします。2000年のトリエンナーレで行った「川はどこへいった」は、ダム建設等で整備された信濃川のかつての姿を見せるべく、昔蛇行して流れていた川の場所を黄色い旗で繋げたインスタレーションです。また今回も、ここ木場の歴史や水との関連を捉えた新作のインスタレーション、「東京ゼロメートル」(2007)を展示しています。(一番下の写真です。)これは、かつて東京に影響を与えた台風の時の潮位などを、美術館の中庭のガラス窓一面に線で表した作品です。最大では美術館の3階部分にまで達するという大潮時の高波の線などを、台風情報を伝えるラジオをBGMにして見ることが出来ました。これらはいつかあり得る災害への警鐘でもあるようです。



このような近年の磯辺の活動を辿ると、キャリア初期の作品はあまりに奇異で、また唐突にも思えてしまいます。と言っても彼は元々、1950年代に、かの瑛九らが主催したデモクラート美術協会に参加した画家、版画家であった人物です。展覧会の導入より中盤部分にかけては、ユトリロ風の重厚な油彩画や、通称「ワッペン」とも言われるレリーフ状の絵画、または抽象パターンをとるリトグラフなどがいくつも紹介されていました。(ただしこのワッペンだけがその良さがまるっきり分かりませんでした。あえて言えば、靴底の型がたくさん張付けられているような作品と言えるかもしれません。)また、60年代に手がけられた、宗達の風神雷神をモチーフに借りた木箱と襖絵を合体させたようなオブジェなども展示されています。ちなみに彼がこのような表現を抜け、「ランド・アート」の方向へ進みはじめたのは、ニューヨークに滞在した1960年代半ばの頃だそうです。展示室のアトリウムにも、彼が1970年にニューヨークで手がけ、当時ユニオン・スクエアに設置されて一世を風靡したという「エア・ドーム」が再現されています。観客は、その中へと入って、当時の展示の模様を紹介した映像を見るという仕掛けなわけです。

人気の男鹿和雄展は、入場までに何と約110分待ちの掲示が出ていましたが、こちらは会場内に10人いるかどうかとさえ怪しいほど閑散としていました。強いて言えば、男鹿展の行列の波に入口が埋もれてしまい、一体どこで開催しているのか分からないほどです。少なくともこの展覧会については、男鹿展との相乗効果は全くをもってゼロに等しいようです。

 

もう一歩、ランド・アートを紹介する展示にボリュームがあればとも思いました。(初めの「ワッペン」やオブジェがかなり多く紹介されています。)今月30日までの開催です。(9/15)
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