「ル・コルビュジエ展」 森美術館

森美術館港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
「ル・コルビュジエ展 - 建築とアート、その創造の軌跡 - 」
5/26-9/24



ロングランの展覧会ですが、確かにこの内容なら長期間にわたって開催するのも無理ありません。絵画、図面、映像、そして中に入ることも可能な原寸大の再現模型など、ありとあらゆる手段でコルビュジエの全貌を明らかにします。



構成は以下の通りです。詳細は公式HPをご参照下さい。

1「アートを生きる」:初期ピュリスム的絵画。原寸大のアトリエ。
2「住むための機械」:近代建築の五原則。「サヴォア邸」。彼のデザインした家具、または車など。
3「共同体の夢」:公的プロジェクトへの参加。「ソヴィエト・パレス」。
4「アートの実験」:後期抽象主義的絵画、及び彫刻。
5「集まって住む」:マルセイユの「ユニテ」の内部を原寸大で再現。
6「輝ける都市」:コルビュジエの都市計画を紹介。「アルジェの都市計画」など。
7「開いた手」:実現した唯一の都市計画、インド、「チャンディガール」。
8「空間の奇蹟」:宗教建築。「ロンシャン礼拝堂」など。
9「多様な世界へ」:東京・上野「国立西洋美術館」など。
10「海への回帰」:毎夏、妻と休暇で訪れていた「カップマルタンの小屋」(カバノン)を原寸大で再現。



この展覧会の展示上の特徴を述べれば、上記の構成を見ても明快なように、原寸大の再現模型と、あまり見慣れないコルビュジエの絵画の紹介にあります。そもそも導入部分は、おおよそ一般的な建築展にはない絵画群の展示です。フォーブ、セザンヌ、それに後にピカソを思わせるその絵画自体に魅力があるかどうかは不明ですが、例えば初期の「暖炉」(1918年)におけるモチーフの白い直方体は、まさに後に彼が手がけた「サヴォア邸」(1928~31年)を予兆させるものすらあります。ちなみにコルビュジエは、パリにある自身の設計したアパートのアトリエ内にて33年間、ほぼ毎日の午前中を絵画制作に費やして過ごしていたのだそうです。さすがにコルビュジエを画家とするには抵抗がありますが、彼を建築家にとどまらない一人のアーティストとして捉えることも可能であると言えるでしょう。この文脈に沿えば、数多くのデザインを手がけた椅子などの家具や、実際にコンペにも出品したSFテイストな車、「最小限自動車」(1928年)も、決して一建築家の片手間な仕事として退けることが出来なくなるわけです。



インスタレーションとしても楽しめる原寸大模型で圧巻なのは、全337戸、おおよそ1600人が生活したという巨大集合住宅、マルセイユの「ユニテ・ダビタシオン」(1952年)です。ここでは、ユニテの一戸分、2階建ての住居空間をそのまま再現して紹介していましたが、特に中庭を思わせるバルコニーや、まるで洞窟のようなバスルームなどが印象に残りました。また展覧会の最後にある「カバノン」(1951年)も魅力ある再現模型です。コルビュジエの妻イヴォンヌのために建てられたという、僅か約8畳一間という小屋は、小型のベットや椅子が並ぶだけの簡素極まりない作品ですが、最低限必要なものだけで構成された空間とその狭さに、さながら隠れ家にいるような居心地の良さを見出すことが出来ました。一般的にコルビュジエ建築は非常に多様で、どれか一点だけを取り上げて語ることは困難ですが、もし初期から晩年までの建築物のエッセンスが最大限に詰まったものを挙げるとしたらまさしくこれではないでしょうか。ドミノより派生する「箱」と、ロンシャンにおける造形美、またはその包み込まれるような空間を、このカバノンに見ることが出来るのです。



日本でコルビュジエと言えば、上野の国立西洋美術館ですが、展示ではその模型やスケッチも紹介されています。と言っても、それは現在の美術館の姿とは大きく異なり、当初、彼が想定していた複合的な施設でした。(予算等の都合により、コルビュジエの計画は、現在の美術館本館だけが実現しています。)今、世界遺産にも登録されようというこの建物は、他のコルビュジエ作品と比べるとやや魅力に欠けるような印象も受けますが、日本に彼の建築物があること自体が殆ど奇跡的なことですらあるのかもしれません。(上野にある好きな建物としては、一番に谷口の法隆寺宝物館、二番目にコルビュジエの弟子、前川による文化会館を挙げたいと思います。)



じっくりと時間をかけて味わいたい展覧会です。一人のアーティストとしての道程を追いながら、結果生まれた建築物の面白さを存分に楽しむことが出来ます。

今更ですが、以下の新書がおすすめです。簡潔ですが、内容が展覧会に一部準拠しており、私のような素人にも理解が深まります。

「ル・コルビュジエを見る―20世紀最高の建築家、創造の軌跡/越後島研一/中公新書」

次の三連休、24日までの開催です。(9/9)
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