酒井抱一 「秋草図屏風」 東京国立博物館

東京国立博物館
平常展・本館2階(日本美術の流れ)8室「書画の展開 - 安土桃山・江戸 - 」
「酒井抱一 - 秋草図屏風 - 」

ようやく風に秋を感じる気候になってきましたが、東京国立博物館の平常展でも秋を見る抱一の名品が展示されています。それがこの「秋草図屏風」(もしくは「月に秋草図屏風」)です。金地の上に鈍く光る月を背景に、たらし込みも瑞々しい秋草がのびやかに駆けていました。


屏風の全体です。蛍光灯の写り込みが激しかったので、少し斜めから撮りました。秋草が上方と右方向へ群れるようにのびています。


浮かぶというよりも、ドンとのしかかるように存在感のある月です。秋草が一部、月に届いています。


墨、または彩色のツートンカラーの葉が絡み合います。すすきはうっすらとしたピンク色を帯びていました。


タッチは決して細やかではありませんが、群れる草花を色の濃淡によって巧みに表現しています。


葉がまるで透き通るかのようにに描かれています。それにすすきの葉はリズミカルです。秋草全体を奥から支えています。


屏風、右下部へのびる蔓です。まるでそれ自体が生きているかのように余白部分へと進んでいます。線は殆ど即興的な感覚です。

保存状態の要因もあるのかもしれません。金屏風にしてはやや地味な、言い換えればあまりきらびやかな作品ではありませんでした。ただそれも、仄かな月明かりに照る夜の秋草の風情、ととれば納得出来るのではないでしょうか。また、秋草の生い茂る地点こそ土の存在を示唆させるような表現がとられていますが、その他、上方や右へとのびる草は、一体それがどこにあるのかが分からないような、あたかも一種の非現実的な空間に置かれているような印象を受けます。これはあえて言えば、月にかかる上方の草が空間の奥へ、また右へのびゆくそれが手前部分へと迫出しているとも出来るのかもしれません。殆どシンボリックな月の存在も含め、この屏風の三次元的空間はかなり錯綜しています。

「夏秋草」に抱一一流の完成された美があるすれば、この「月に秋草図」はそれと対照的な『ゆるみの美』の極致が表現されているとも言えるでしょう。見れば見るほどやや謎めいた印象も受ける、実に味わい深い作品でした。

10月8日まで展示されています。(この他、抱一の書状も出ていました。)
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