都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「大琳派展」 東京国立博物館 Vol.7(風神雷神図そろい踏み)
東京国立博物館(台東区上野公園13-9)
「大琳派展 - 継承と変奏 - 」
10/7-11/16
ようやく真打ちの登場です。明日、28日より宗達の「風神雷神図屏風」の展示が始まり、光琳、抱一、其一と合わせて計4作の風神雷神図が一挙に揃います。会場の熱気もさらにヒートアップしそうです。
(上より宗達、光琳、抱一の「風神雷神図屏風」)
ちょうど昨日、改めて大琳派展へ行ってきましたが、第1会場での宗達、光琳の「槙楓図屏風」の展示は終了し、ちょうどそれと入れ替わるようにして光琳、抱一、其一の各風神雷神図の三点が並んでいました。そして宗達作は一番左、ようはかつて宗達の「槙楓図屏風」のあった部分に、其一と向かいあう形にて展示されるようです。展示空間の三方を風神雷神で取り囲むという、東博平成館ならではの壮大な構成となりそうです。
風神雷神図のそろい踏みと言って思い出すのは、ちょうど2年前の秋、宗達、光琳、抱一の三作の揃った出光美術館での「国宝 風神雷神図屏風」展のことです。率直なところ、かの展観で66年ぶりに風神雷神図が揃ったことに比べれば、いくら其一が加わったとはいえ、今回の琳派展のインパクトが薄いのは否めませんが、次にいつ揃うのかということを考えれば、やはり是非とも見るべき展示だと言えるのではないでしょうか。当然ながらオリジナルの宗達作は別格です。基本的に光琳も抱一も、先人へのリスペクトの意味合いの強い作品であるが故に、優劣を競うものではありませんが、それでも各絵師の個性が現れているのは言うまでもありません。激しい雷雨を降らす、勇壮でドラマチックな宗達の基準作、そしてそれを忠実に捉えながらも、両者の目を向け合うなどして、収まりよい構図にまとめた光琳、さらには光琳作をやや変形させながらも写し取り、まるで人間が仮装したかのような剽軽としたポートレート風の風神雷神を描く抱一と、別個に存在する異なった魅力が確かに存在しています。時間を忘れて見比べてしまいそうです。
宗達の風神雷神図と相対して引けを取らない光琳と抱一の作品を挙げるとしたら、それは対峙する構図上の関連の指摘される「紅白梅図屏風」(MOA美術館。今回不出品。)と、光琳作の裏に風神雷神の地上世界を呼応させた「夏秋草図屏風」にあるに違いありません。残念ながら大琳派展には前者の出品がなく、例えば宗達の風神雷神の隣にあえて紅白梅を並べ、さらには光琳の風神雷神の裏に夏秋草を持ってくるというような展示は望めませんが、単に三作の間違い探しをするよりも、そうしたイメージを元に、また宗達作や夏秋草を見るのも良いのではないでしょうか。実際のところ、例えば抱一の風神雷神に限れば、かの屏風よりも「風神雷神図扇」にこそ彼らしさが現れています。扇の両面でミニ風神雷神が楽しげに踊っていました。
当初から展示され、評判も上々と聞く其一の襖も、今回4作揃うことで改めて見直されるのではないでしょうか。紅白梅と夏秋草で宗達への回答を済ませた光琳と抱一に対し、其一は全8面の襖という形にて風神雷神の呪縛を解放しました。其一の表現、例えば風神の細長い手や足の爪先のシャープな造形、そしてその下のわき上がるような黒雲などは、明らかに抱一作の影響が感じられます。全体としても、光琳作の模写というより抱一の画風色の濃い「光琳百図」に似ていて、両者の直接的な関係の痕跡は、この作品でもはっきりと見ることが出来そうです。(図版上、抱一編「光琳百図」、下、其一「風神雷神図襖」)
入場者数もほぼ「対決展」と同ペースで10万人を突破しました。また後期に入り、風神雷神以外にも注目すべき作品がいくつも展示されています。拙いですが、次回の記事でまたご紹介したいと思います。
*大琳派展シリーズ
Vol.12(鈴木其一+まとめ)
Vol.11(酒井抱一)
Vol.10(光琳、乾山)
Vol.9(宗達、光悦)
Vol.8(光琳、抱一、波対決)
Vol.6(中期展示情報)
Vol.5(平常展「琳派ミニ特集」)
Vol.4(おすすめ作品など)
Vol.3(展示替え情報)
Vol.2(内覧会レクチャー)
Vol.1(速報・会場写真)
*関連エントリ
大琳派展@東博、続報その2(展示品リスト公開。)+BRUTUS最新刊「琳派って誰?」
大琳派展@東博、続報(関連講演会、書籍など。)
大琳派展(東博)、公式サイトオープン
「大琳派展 - 継承と変奏 - 」
10/7-11/16
ようやく真打ちの登場です。明日、28日より宗達の「風神雷神図屏風」の展示が始まり、光琳、抱一、其一と合わせて計4作の風神雷神図が一挙に揃います。会場の熱気もさらにヒートアップしそうです。
(上より宗達、光琳、抱一の「風神雷神図屏風」)
ちょうど昨日、改めて大琳派展へ行ってきましたが、第1会場での宗達、光琳の「槙楓図屏風」の展示は終了し、ちょうどそれと入れ替わるようにして光琳、抱一、其一の各風神雷神図の三点が並んでいました。そして宗達作は一番左、ようはかつて宗達の「槙楓図屏風」のあった部分に、其一と向かいあう形にて展示されるようです。展示空間の三方を風神雷神で取り囲むという、東博平成館ならではの壮大な構成となりそうです。
風神雷神図のそろい踏みと言って思い出すのは、ちょうど2年前の秋、宗達、光琳、抱一の三作の揃った出光美術館での「国宝 風神雷神図屏風」展のことです。率直なところ、かの展観で66年ぶりに風神雷神図が揃ったことに比べれば、いくら其一が加わったとはいえ、今回の琳派展のインパクトが薄いのは否めませんが、次にいつ揃うのかということを考えれば、やはり是非とも見るべき展示だと言えるのではないでしょうか。当然ながらオリジナルの宗達作は別格です。基本的に光琳も抱一も、先人へのリスペクトの意味合いの強い作品であるが故に、優劣を競うものではありませんが、それでも各絵師の個性が現れているのは言うまでもありません。激しい雷雨を降らす、勇壮でドラマチックな宗達の基準作、そしてそれを忠実に捉えながらも、両者の目を向け合うなどして、収まりよい構図にまとめた光琳、さらには光琳作をやや変形させながらも写し取り、まるで人間が仮装したかのような剽軽としたポートレート風の風神雷神を描く抱一と、別個に存在する異なった魅力が確かに存在しています。時間を忘れて見比べてしまいそうです。
宗達の風神雷神図と相対して引けを取らない光琳と抱一の作品を挙げるとしたら、それは対峙する構図上の関連の指摘される「紅白梅図屏風」(MOA美術館。今回不出品。)と、光琳作の裏に風神雷神の地上世界を呼応させた「夏秋草図屏風」にあるに違いありません。残念ながら大琳派展には前者の出品がなく、例えば宗達の風神雷神の隣にあえて紅白梅を並べ、さらには光琳の風神雷神の裏に夏秋草を持ってくるというような展示は望めませんが、単に三作の間違い探しをするよりも、そうしたイメージを元に、また宗達作や夏秋草を見るのも良いのではないでしょうか。実際のところ、例えば抱一の風神雷神に限れば、かの屏風よりも「風神雷神図扇」にこそ彼らしさが現れています。扇の両面でミニ風神雷神が楽しげに踊っていました。
当初から展示され、評判も上々と聞く其一の襖も、今回4作揃うことで改めて見直されるのではないでしょうか。紅白梅と夏秋草で宗達への回答を済ませた光琳と抱一に対し、其一は全8面の襖という形にて風神雷神の呪縛を解放しました。其一の表現、例えば風神の細長い手や足の爪先のシャープな造形、そしてその下のわき上がるような黒雲などは、明らかに抱一作の影響が感じられます。全体としても、光琳作の模写というより抱一の画風色の濃い「光琳百図」に似ていて、両者の直接的な関係の痕跡は、この作品でもはっきりと見ることが出来そうです。(図版上、抱一編「光琳百図」、下、其一「風神雷神図襖」)
入場者数もほぼ「対決展」と同ペースで10万人を突破しました。また後期に入り、風神雷神以外にも注目すべき作品がいくつも展示されています。拙いですが、次回の記事でまたご紹介したいと思います。
*大琳派展シリーズ
Vol.12(鈴木其一+まとめ)
Vol.11(酒井抱一)
Vol.10(光琳、乾山)
Vol.9(宗達、光悦)
Vol.8(光琳、抱一、波対決)
Vol.6(中期展示情報)
Vol.5(平常展「琳派ミニ特集」)
Vol.4(おすすめ作品など)
Vol.3(展示替え情報)
Vol.2(内覧会レクチャー)
Vol.1(速報・会場写真)
*関連エントリ
大琳派展@東博、続報その2(展示品リスト公開。)+BRUTUS最新刊「琳派って誰?」
大琳派展@東博、続報(関連講演会、書籍など。)
大琳派展(東博)、公式サイトオープン
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )