都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「国立西洋美術館 常設展示」(Vol.2・新館編) 国立西洋美術館
国立西洋美術館(台東区上野公園7-7)
「国立西洋美術館 常設展示」(Vol.2・新館編)
~8/31
Vol.1に続きます。本館の後は、板張りの床面も真新しい、リニューアルされた西美新館を見てきました。
新館第8室「19世紀の絵画」。中央に立つのはロダンの「説教する洗礼者ヨハネ」です。馴染み深い作品も新調された空間で見ると新鮮味がありました。
アリ・シェフェール「戦いの中、聖母の加護を願うギリシャの乙女たち」(1826)
ギリシャの対トルコ戦争に主題をとった作品です。遠くには戦争の様子も垣間見える岩窟では、女性たちがイコン前にして祈るような仕草を見せています。この戦い、つまりミソロンギ攻防戦は、義勇兵として参加した詩人バイロンの死でも有名となりました。(キャプションを参考)
ギュスターヴ・ドレ「ラ・シエスタ、スペインの思い出」(1868)
縦3メートル近くもあるドレの大作です。黄昏の街角の光景を美しく表しています。すっと差し込む光は、画面をまるで舞台のワンシーンのように演出しました。奥にそっと壁に寄り添って立つ女性の表情も魅力的です。
ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィルの浜」(1867)
「海浜生活」(解説HPより)を楽しむ人々の様子が描かれています。画面の8割を占める空と、他2割の海岸で分割された構図、もしくはやや引き気味に捉えた構図に安定感があるからでしょうか。賑わいのがやがやとした様子はあまり伝わらず、むしろ静かで落ち着いた印象を受けました。
カミーユ・ピサロ「冬景色」(1873)
いつもこの作品の前に来ると、科学文明の到来した時代の気配を感じます。土手沿いの小道に立ち並ぶ支柱は、言うまでもなく電柱でした。すっきりと晴れない、やや陰った曇り空に、どことない哀愁の漂う作品です。
クロード・モネ「セーヌ河の朝」(1898)
西美常設で一番人気があるのは、やはり作品も多いモネなのでしょうか。枝垂れのモチーフも幽玄に、草むらに覆われた川面の色の渦が、モネ一流の繊細でざわめいたタッチで表されています。この色には呑み込まれてしまいました。
これまではほぼデッドスペースであった中庭(一階)横の空間に、ロダンの彫刻の並ぶ新展示室が登場しました。リニューアルで一番変化のあった箇所ではないでしょうか。
こちらは第11室、19世紀の絵画のコーナーです。後ほど紹介するセガンティーニ、ハンマースホイの新収蔵作品も加わって、より充実したスペースへと変化しました。
アンリ・ファンタン=ラトゥール「聖アントニウスの誘惑」
タイトルを知らなければ、まるでニンフたちが愉しそうに祝宴を催している様子にも見えます。七色にも光る女性たちは、手に酒を持ち、また裸体をさらけ出して、アントニウスを大仰に誘っていました。
ジョヴァンニ・セガンティーニ「羊の剪毛」(1883-84)
新収蔵作品のうちの一つです。ワイドな横長の画面に、羊飼いたちが毛を刈る光景が描かれています。眩しいほどの光に包まれて輝く羊の毛、そして土や柱のグレーや茶色などが、セガンティーニらしい澄み切ったタッチでまとめられていました。
フランク・ウィリアム・ブラングィン「しけの日」(1889)
まるで廃船のように古びた蒸気船が荒れ狂う波間を進みます。甲板より手を向ける男は、手前のボートへと指示を送っているのでしょうか。ドラマチックな構成はもちろん、力強く、メタリックな色遣いには迫力も感じられました。なお来年には同館にて、ブラングィンを回顧する企画展も予定されています。これは待ち遠しいです。(「フランク・ブラングィン展@国立西洋美術館」 2010/2/23~5/30)
ヴィルヘルム・ハンマースホイ「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」(1910)
去年、同館の一大回顧展で話題をさらったハンマースホイの作品がさり気なく展示(新収蔵品)されていました。かの企画展では、モデルの後姿や誰もいない室内など、どこかメランコリックなモチーフの連続に滅入ってしまった部分もありましたが、このようにして一枚だけ展示されると、潔癖でさえあるほどに塵一つない室内空間はもとより、一見日常を捉えたようでも、基底に流れる非日常的な沈黙の物語など、他にはない魅力があることを改めて感じました。
最後の展示室、第12室の「20世紀絵画」です。スーティンやミロ辺りのインパクトは強烈ですが、それまでの流れからすると全体としての印象がいささか薄くなってしまうのは否めません。
この日は版画展を第一目的にすべく、先にこちらを流して見るつもりで入りましたが、さすがに久々の全館展示ということもあってか、自分でも思いもつかないほど長い時間うろうろと歩き回ってしまいました。強い衝撃を与えるような作品こそ多くはありませんが、これほど安定感のある西洋絵画コレクションを楽しめる場所は、国内では西美の他に考えられません。
現在の常設展示は8月30日まで開催されています。(9月初旬に展示替えが予定されています。)
「国立西洋美術館 常設展示」(Vol.2・新館編)
~8/31
Vol.1に続きます。本館の後は、板張りの床面も真新しい、リニューアルされた西美新館を見てきました。
新館第8室「19世紀の絵画」。中央に立つのはロダンの「説教する洗礼者ヨハネ」です。馴染み深い作品も新調された空間で見ると新鮮味がありました。
アリ・シェフェール「戦いの中、聖母の加護を願うギリシャの乙女たち」(1826)
ギリシャの対トルコ戦争に主題をとった作品です。遠くには戦争の様子も垣間見える岩窟では、女性たちがイコン前にして祈るような仕草を見せています。この戦い、つまりミソロンギ攻防戦は、義勇兵として参加した詩人バイロンの死でも有名となりました。(キャプションを参考)
ギュスターヴ・ドレ「ラ・シエスタ、スペインの思い出」(1868)
縦3メートル近くもあるドレの大作です。黄昏の街角の光景を美しく表しています。すっと差し込む光は、画面をまるで舞台のワンシーンのように演出しました。奥にそっと壁に寄り添って立つ女性の表情も魅力的です。
ウジェーヌ・ブーダン「トルーヴィルの浜」(1867)
「海浜生活」(解説HPより)を楽しむ人々の様子が描かれています。画面の8割を占める空と、他2割の海岸で分割された構図、もしくはやや引き気味に捉えた構図に安定感があるからでしょうか。賑わいのがやがやとした様子はあまり伝わらず、むしろ静かで落ち着いた印象を受けました。
カミーユ・ピサロ「冬景色」(1873)
いつもこの作品の前に来ると、科学文明の到来した時代の気配を感じます。土手沿いの小道に立ち並ぶ支柱は、言うまでもなく電柱でした。すっきりと晴れない、やや陰った曇り空に、どことない哀愁の漂う作品です。
クロード・モネ「セーヌ河の朝」(1898)
西美常設で一番人気があるのは、やはり作品も多いモネなのでしょうか。枝垂れのモチーフも幽玄に、草むらに覆われた川面の色の渦が、モネ一流の繊細でざわめいたタッチで表されています。この色には呑み込まれてしまいました。
これまではほぼデッドスペースであった中庭(一階)横の空間に、ロダンの彫刻の並ぶ新展示室が登場しました。リニューアルで一番変化のあった箇所ではないでしょうか。
こちらは第11室、19世紀の絵画のコーナーです。後ほど紹介するセガンティーニ、ハンマースホイの新収蔵作品も加わって、より充実したスペースへと変化しました。
アンリ・ファンタン=ラトゥール「聖アントニウスの誘惑」
タイトルを知らなければ、まるでニンフたちが愉しそうに祝宴を催している様子にも見えます。七色にも光る女性たちは、手に酒を持ち、また裸体をさらけ出して、アントニウスを大仰に誘っていました。
ジョヴァンニ・セガンティーニ「羊の剪毛」(1883-84)
新収蔵作品のうちの一つです。ワイドな横長の画面に、羊飼いたちが毛を刈る光景が描かれています。眩しいほどの光に包まれて輝く羊の毛、そして土や柱のグレーや茶色などが、セガンティーニらしい澄み切ったタッチでまとめられていました。
フランク・ウィリアム・ブラングィン「しけの日」(1889)
まるで廃船のように古びた蒸気船が荒れ狂う波間を進みます。甲板より手を向ける男は、手前のボートへと指示を送っているのでしょうか。ドラマチックな構成はもちろん、力強く、メタリックな色遣いには迫力も感じられました。なお来年には同館にて、ブラングィンを回顧する企画展も予定されています。これは待ち遠しいです。(「フランク・ブラングィン展@国立西洋美術館」 2010/2/23~5/30)
ヴィルヘルム・ハンマースホイ「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」(1910)
去年、同館の一大回顧展で話題をさらったハンマースホイの作品がさり気なく展示(新収蔵品)されていました。かの企画展では、モデルの後姿や誰もいない室内など、どこかメランコリックなモチーフの連続に滅入ってしまった部分もありましたが、このようにして一枚だけ展示されると、潔癖でさえあるほどに塵一つない室内空間はもとより、一見日常を捉えたようでも、基底に流れる非日常的な沈黙の物語など、他にはない魅力があることを改めて感じました。
最後の展示室、第12室の「20世紀絵画」です。スーティンやミロ辺りのインパクトは強烈ですが、それまでの流れからすると全体としての印象がいささか薄くなってしまうのは否めません。
この日は版画展を第一目的にすべく、先にこちらを流して見るつもりで入りましたが、さすがに久々の全館展示ということもあってか、自分でも思いもつかないほど長い時間うろうろと歩き回ってしまいました。強い衝撃を与えるような作品こそ多くはありませんが、これほど安定感のある西洋絵画コレクションを楽しめる場所は、国内では西美の他に考えられません。
現在の常設展示は8月30日まで開催されています。(9月初旬に展示替えが予定されています。)
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