「謎のデザイナー 小林かいちの世界」 ニューオータニ美術館

ニューオータニ美術館千代田区紀尾井町4-1
「謎のデザイナー 小林かいちの世界」
7/11-8/23



大正後期より昭和初期にかけ、主に京都で絵葉書や封筒などの図案を手がけた小林かいち(1896~1968)の業績を紹介します。ニューオータニ美術館で開催中の「謎のデザイナー 小林かいちの世界」へ行ってきました。

表題の「謎のデザイナー」というのもあながち誇張ではありません。明治生まれのかいちは、昭和43年に没するまでの60年余の生涯を全うしましたが、前述の通り、その目立った制作期は大正末より昭和初期までに限られ、他の経歴なども決して詳らかになっているとは言えません。「好事家の間」(HPより引用)では知られてはいたというもの、私自身も実際にかいちの作品を意識して見たのは初めてでした。

 

そもそもかいちのデザインは先に海外コレクターに知られ、それが逆輸入されることで国内でも認知されるようになってきた経緯を辿っています。そして今回は、そうした彼の業績を初めて東京でまとまって紹介する展覧会です。以前にも、この展示の作品収蔵元でもある伊香保の保科美術館などで回顧展があったそうですが、この機会を逃すという手はないというわけでした。

かいちの描くデザインの溢れるロマンに心打たれたのは私だけではないはずです。優雅な曲線美によって象られた絵葉書の小宇宙は、もはや一つのドラマを演じる舞台として捉えても良いのではないでしょうか。後姿にも美しい女性の小人たちは、艶やかな服を身にまとって、夢二やミュシャ、そしてロートレックを連想させるような甘美な世界を次々と作り出していました。

 

「現代に通用する」(ちらしより引用)という言葉も、時に有りがちな褒め言葉になる嫌いもありますが、かいちに関してはそうした懸念も無用です。雪佳にも連なる京琳派風の千鳥しかり、伝統的な日本の花鳥画の紋様をちりばめつつも、擬人化された蝶、また十字架や鍵などといった西洋風の多様なモチーフは、幾何学的に交差する線の中で自在に登場し、まさに洋の東西を超えたモダンな図像を生み出していました。そして薄ピンクやワイン色を多用した色遣いもまた見逃せません。淡く優しい紫やピンクが仄かに広がり、図柄を生み出す繊細な感性と照応していました。



惹かれた作品をあげるとキリがないので控えますが、関東大震災で灰燼に帰した街を捉えた「廃墟」のシリーズの他、クローバーが唇に触れてキスをする「草花」、そして上にも図版を載せた花が涙してハートのエースを描く「トランプ」の模様などには強く心打たれました。

なお残念ながら本展示は図録がありませんが、その代わりとも言うべき以下の書籍が刊行されています。そちらを一読してかいちの世界に近づくのも良いのではないでしょうか。

「小林かいちの魅力 - 京都アール・デコの発見/山田俊・永山多貴子/清流出版」

会場を一巡して見終えた後、出口など視界に入らず、自然と二巡目の観覧に入っていた自分にしばらく経ってから気がつきました。かつてこの美術館での開かれた巴水展と同じくらいの衝撃を受けたかもしれません。

8月23日までの開催です。今更ながらも強くおすすめします。
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