「かたちは、うつる - 国立西洋美術館所蔵版画展 - 」 国立西洋美術館

国立西洋美術館台東区上野公園7-7
「かたちは、うつる - 国立西洋美術館所蔵版画展 - 」
7/7-8/16



国立西洋美術館の開館50周年を祝して、同館所蔵の版画コレクションを概観します。開催中の「かたちは、うつる - 国立西洋美術館所蔵版画展 - 」へ行ってきました。

本展の概要は以下の通りです。

・所蔵の版画コレクションを開館以来、初めてまとまった形で紹介する展覧会。
・現在、所蔵する約3747点の版画のうち、若干の素描を加えた約130点を公開する。
・入場料は常設展扱いだが、会場は地下フロアの企画展示室を用いている。(もちろん同一の入場券で常設展も合わせて観覧可能。)
・作品を序章と全二部、うち「影」、「身体」、「肖像」などの10以上のテーマに分けて展観。

ファンにとっては定評のある西美の版画コレクションを、常設展内の版画室ではなく、広々とした企画展示室を使って見られることだけでも感涙ものかもしれません。上記の通り、実際のところ設定テーマの分類が細か過ぎるせいか、やや『お勉強色』の濃い展覧会ではありますが、(メモリアルの展示でもあるので、単純な時代別の名品展でも良かったかもしれません。)そうした学問的云々の内容は一端脇に置いておいて、素直に作品だけを見ても楽しめるのではないでしょうか。印象深かった作品をいくつか挙げてみました。



アルブレヒト・デューラー「メレンコリア」
いきなり登場するデューラーの傑作。頬杖をつきながらコンパスを持って座る、おそらくは天使の姿が描かれている。細部まで精緻に示された線はまさにデューラーならではの密度。メタリックな質感を巧みに表現する。



レンブラント・ファン・レイン「蝋燭の明かりのもとで机に向かう書生」
暗がりの中を書を前にして座る男性。肘を机の上について、頬に手をやっている。そもそも頬杖のポーズは怠惰、憂鬱、つまりはメランコリー的な様相を表すのだそう。思索もそこから派生するわけだが、考えるということも、そうした面に結びつく要素があるのかもしれない。

マックス・クリンガー「夢」
今回の展示で何点が登場するクリンガーの作品のうちの一つ。モチーフからして、この前に出てくるゴヤの「理性の眠りは怪物を生む」を連想させる。頬杖をついて大きな瞳を見開く少女の背後には、何やら悪魔的な人物たちがその夢を貪るかのようにしてのしかかっていた。



マックス・クリンガー「蛇」
エヴァが禁断の果実を持ち、蛇の差し出す鏡を見て悦に入っている姿が描かれている。この妖しさがたまらなく魅力的。クリンガーは今回の一推し。



ジョバンニ・バッティスタ・ピラネージ「ポセイドン神殿」
縦45、横70センチの大画面に列柱の連なる堂々としたポセイドン神殿を描く。柱に差し込む淡い光と影、また柱の割れ目や石の積まれた様などを示す絵画的表現が、その景色を眼前に引き出すような臨場感を演出していた。まさに圧倒的。



ロドルフ・ブレダン「死の喜劇」
沼の周囲に広がる冥界の景色。木は朽ち果て、枝葉は生気を失い、沼地は澱み、反面の骸骨はその上方で華々しくダンスする。木から浮き上がる髑髏のダブルイメージ、また意味ありげな梟、そして隆々とせり上がる雲など、まるでそれ自体が壮大な絵巻物のようにドラマチックだった。素晴らしい。



レンブラント・ファン・レイン「三本の木」
かの夜警と同時期に描かれたというレンブラントの風景画。丘の上に立つ三本の木が、まるでカーテンのように靡く大気に洗われる。実景なのか定かではないが、荒涼たる地でもしっかりと結びついて連帯する木々の姿には心打たれた。



ジュリオ・カンパニョーラ「洗礼者ヨハネ」
決して質感表現に長けているわけではないものの、その厳めしい表情にもよるのか、不思議にも生身の肉体の気配を感じるヨハネの姿である。

フランシスコ・ゴヤ「立派なお手柄 死人を相手に」
とても図版を載せられそうもないほど惨たらしい作品。首が木に突き刺さり、腕がもげ、胴がだらりとぶら下がる。数点出ていたゴヤの「戦争の惨禍」シリーズの中でもとりわけショッキングな一枚だった。



シャルル・メリヨン「死体公示所」
強い日差しを浴びているのか、白の眩しい建物が起立して連なる様子が描かれている。タイトルを見なければ単なる風景画とも思ってしまうが、下方に目を向けると死体を運ぶ男、そしてそれを見て嘆く女などの生々しい様子が示されていた。



ウジェーヌ・ドラクロワ「ファウストとメフィストフェレス」
お馴染みのファウストに取材したドラクロワの作品。メフィストの狡智な表情と、彼の乗る馬のたてがみの不気味な様が印象に残る。ちなみにドラクロワではもう一枚、文学作品にモチーフをとった「ハムレットの死」も秀逸。破滅的なフィナーレを劇画的に表していた。

テーマありきの構成なので、時代もデューラーからピカソ、また例えばゴヤの「戦争の惨禍」などが飛び飛びで並ぶなど、見る側にその都度の頭の切り替えを要求するような部分もありますが、何はともあれ、西美の版画を100点超も見られて満足出来ました。

夏休み期間中もあるのか、常設展は賑わっていましたが、こちらの版画展の空間は静寂に包まれていました。いくら国立の西美、また所蔵品の公開であるとは言え、入場料が常設を合わせても僅か420円とは超お得です。

版画ファン必見の展覧会です。16日まで開催されています。
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