
出版社されているのは彦根市の「サンライズ出版」で、湖国「滋賀」の文化情報発信を行い続ける創業90年にもなる出版社だといいます。
本が出版されたのは2013年のことで、その後に勧請縄を取り止められた集落も多くなっているようですので、この本は失われつつある勧請縄の民俗を伝える貴重な記録といえます。
勧請縄が全てオールカラーで紹介されているのも嬉しい限りですが、構造や各部の名称・形態や吊り下げ時期・県内での分布図など資料としても充実した内容になっています。

本には他にも祈祷札に書かれた文字の読み取り、木札に書かれた仏の名なども記載されていたり、近江の年頭行事がオコナイ文化圏と勧請縄文化圏に分化したのではという推論も書かれていて興味深い。
今回は、これまで見てきた近江の勧請縄のまとめと湖北で唯一の「森本神社」の勧請縄についての話です。
実際に見たのは十数カ所の勧請縄だけですが、地域によって傾向の近さは多少あるものの、全てその集落独特の勧請縄になっており、見る度に驚きを感じていました。
最初から「勧請縄 個性豊かな村境の魔よけ」の本を知っていたら、もっと簡単に見つけられたと思いますが、分からないままか細い情報を頼りに探し歩いていたのも楽しい日々でした。

「馬見岡綿向神社の勧請縄」(滋賀県蒲生郡日野町村井)

「熊野神社の勧請縄」(滋賀県蒲生郡日野町熊野)

「奥石神社の勧請縄」 (滋賀県近江八幡市安土町東老蘇)

「内野の勧請縄」( 滋賀県近江八幡市安土町内野)

「行事神社の勧請縄」(滋賀県野洲市行畑)

「新川神社の勧請縄」(滋賀県野洲市野洲)

「諸木神社の勧請縄」(滋賀県蒲生郡日野町北脇)

「北脇の勧請縄」(滋賀県蒲生郡日野町北脇)

「マキノ町下の勧請縄」(滋賀県高島市マキノ町下)

「伊庭仁王堂の勧請縄」(滋賀県東近江市伊庭町)

「伊庭高木観音の勧請縄」(滋賀県東近江市伊庭町)

「長勝寺の勧請縄」(滋賀県東近江市長勝寺町)

「高野神社の勧請縄」(滋賀県東近江市永源寺高野町)

「岡田八幡神社の勧請縄」(滋賀県東近江市岡田町)
ところで、勧請縄は滋賀県では湖東地方・湖南地方に集中していおり、湖西地方にもいくつか見られるものの、湖北地方では唯一といえる勧請縄の風習が長浜市高月町森本にあるようです。
「森本神社」は天石門別神を御祭神として祀る神社で、境内はさほど広くはないものの参道には長い大繩が張られ、御幣が刺さっている。


森本集落の在所の半分ほどは近くにある大きな工場の倉庫が立ち並び、田園はもうないような集落にも関わらず、森本集落にだけ勧請縄の風習があるのは不思議な感じがします。
また、森本集落には野神さんが祀られており、野神塚にはまだ新しい御幣が奉じられていることから、森本集落にはまだ古くからの信仰が伝承されているようです。


「勧請縄 個性豊かな村境の魔よけ」で紹介されている勧請縄は、県内161ヶ所で、当方が確認できたのはその一割にも満たない数です。
勧請縄が集落によって集落独特の作り方や祀り方が受け継がれているのを確認できた反面、受け継ぐ人が少なくなってきたとの話を複数の集落で聞きました。
行ってはみたものの勧請縄がなかった集落や既に廃止になったことを確認できた集落が何ヶ所かあったことは大変残念に思います。