秋尾沙戸子著「ワシントンハイツ-GHQが東京に刻んだ戦後」2009年7月新潮社発行を読んだ。
「ワシントンハイツ」は、東京都渋谷区のフェンスに囲まれた800戸の米軍家族住宅で、占領期、戦後20数年間存在した「アメリカ村」だ。現在、代々木公園、NHK放送センターなどがある地域で、戦前は代々木の練兵場と呼ばれ、日本で初めて飛行機が飛んだ場所でもある。
この本は単にワシントンハイツについて述べるのではなく、戦後、忽然と都心に現れた「日本の中のアメリカ」から、日本人の「アメリカ化」が広がっていった様子を述べている。敗戦後、GHQは何を意図し、我々の生活をいかにアメリカ化したか。日米の様々な資料を発掘し、数多くのアメリカ人家族、交流のあった日本人などの話を聞き、アメリカ軍の占領はいかになされたかを人びとの視点から明らかにする。
以下、いくつか拾い出す。
戦争直前から、米軍は、軍需工場だけでなく、燃えやすい労働者の住宅を壊滅させることが日本の戦意喪失につながると考えた。スタンダードオイル社に強力なM69焼夷弾を開発させ、それを60個つめこんだクラスターを作り上げた。さらに、砂漠に住宅群を作り、日本と同じ装備の消防団まで用意して、焼夷弾の効果を確認する実験を行った。
(その頃、日本では竹やりとバケツリレーの訓練を行っていたのだから嫌になる)
日本国憲法原案をGHQがいかに書き上げたかについて、実状を調べている。とくに、22歳の女性に任せられた女性の権利に関する条文草案と経緯について詳しく述べている。結局、草案から生き残ったのは憲法24条の家族での男女平等だけだったのだが。
岸信介がCIAからの援助で首相になったとの話は従来から一部で語られていたが、この本でも、CIA文書を引用してそのことを明らかにしている。
表参道の新聞販売所の人が、ワシントンハイツの東半分を担当し、西半分は富ヶ谷販売所の山本一力(現作家)
が担当したと語っている。
目次
帝国アメリカの残像/青山表参道の地獄絵図/ある建築家の功罪と苦悩/「ミズーリ」の屈辱/乗っ取られた代々木原宿/オキュパイド・ジャパン/かくて女性たちの視線を/GHQデザインブランチ/まずは娯楽ありき/有閑マダムの退屈な日々/尋問か協力か/GHQのクリスマス/立ち上がる市民たち/諜報部員「ニセイ・リンギスト」/アイドルの誕生/瓦解したアメリカ帝国/そして軍用ヘリは舞い降りる/視界から消えた「占領」
秋尾沙戸子は、名古屋市生まれ。東京女子大学文理学部卒。上智大学大学院博士後期課程満期退学。サントリー宣伝部を経て、テレビ朝日「CNNデイウォッチ」、NHK総合「ナイトジャーナル」、関西テレビ「ワンダラーズ」などの報道情報番組キャスターとして活躍。2001年、ウズベキスタンで製作された映画「オイジョン」に女優として主演し、キノショック映画祭審査員賞受賞。TUBEなどの作詞家としての顔も持つ。民主化をテーマに旧東欧やアジアの国を歩き、ジョージタウン大学大学院外交研究フェローとしてワシントンに滞在したのを機に占領研究を始める。インドネシア第5代大統領の半生を描いた「運命の長女」で第12回アジア太平洋賞特別賞。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)
占領期の米国と日本の関係に興味のある人には是非読んで欲しい本だが、そのような人は少ないだろうから三つ星とした。マッカーサーだの、白洲次郎だの、上からの目線でなく、庶民の目から見た占領の実体はよく捕らえてある。多くの資料を調べ、多くの人の話を聞いて、しっかりした構成にまとめた労作といえる。