綿矢りさ著『憤死』(2013年3月河出書房新社発行)を読んだ。
狭い小さな世界から飛び立つ道を模索する綿矢さんの、短編への、怖い話への、挑戦。
おとな
もっとも昔の記憶と、5歳だった”りさ”の最古のエロティックな夢、いや現実の話。エッセイ風で、不穏で、ちょっと不気味な雰囲気に包まれた3ページ余りの短編
トイレの懺悔室
小学校高学年の男の子の話。
近所の親父、といっても何かというと子供たちを仕切ろうとする他人、が、少年たちに自己流の洗礼を施す。物まねの洗礼儀式の後、自分は自宅のトイレに入り、子供たちに罪を告白、懺悔させる。その行為は、奇妙な快感をもたらす。やがて、神父役と懺悔する者との倒錯した関係を作り出し、凄惨な事態へ至る。60頁ほど。
憤死
金持ちの子で、自慢しい、選民意識が強く、女版の太ったスネ夫の佳穂。うさぎ当番を強要されたわがままな佳穂はエキセントリックに発作じみた行動で拒否する。ひねくれ者で冴えない私と彼女の余りもの二人は小学校で友達だった。やがて20歳になり、再会した佳穂は“出来上がっていた”。外国での暮らしのせいか、高慢さを私だけでなく、誰にでも常に解き放っていた。
失恋した佳穂は、怒りにまかせて自分の命に八つ当たりしてバルコニーから飛び降りる。それは、歴史上の人物が起こす、ただひたすら純度の高いわがままと、神々しいほどの激しい怒りが巻き起こす死、「憤死」という名にふさわしかった。
人生ゲーム
小6の少年3人が「人生ゲーム」で遊んでいるところへ、2階から下りて来た高校生がボードに3つの丸をマジックで書き込んでいう。「いいか、おれが丸をつけた場所で、おまえたちは必ず不幸になる。そのときはおれんとこ来い」。やがて、2人を不幸が襲うが、ボード上に丸を付けた箇所のとおりの事故だった。
初出:毎日新聞、文藝、群像など。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
あり得ない恐い話が続く。この作品は今一歩だが、ひょとしたら、綿矢りさは、こういう話がお似合いなのかもしれない。
一人の作家を読み続けると、勢いがありつつ不安定な処女作から、安定感のある作品へと成長していく様を見るものなのではないか? しかし、彼女の場合はどうもそのように一筋縄ではいきそうにない。作を重ねる毎に、見ず知らずの他人とメシを食べているような、そんな居心地悪さが強くなっていくような感触がある。
綿矢りさという作家は、その端麗な容姿から得られるステレオタイプなイメージより、ずっと複雑な作家なのかもしれない。彼女の作品を読み続けていると、そう思えてくる。
相変わらず文字の大きさと紙の厚さで稼ぐのはいかがなものか。
綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える』
2010年、『 勝手にふるえてろ』
2011年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞
2012年、『しょうがの味は熱い』、『ひらいて』
2013年、『大地のゲーム』、、『憤死』
狭い小さな世界から飛び立つ道を模索する綿矢さんの、短編への、怖い話への、挑戦。
おとな
もっとも昔の記憶と、5歳だった”りさ”の最古のエロティックな夢、いや現実の話。エッセイ風で、不穏で、ちょっと不気味な雰囲気に包まれた3ページ余りの短編
トイレの懺悔室
小学校高学年の男の子の話。
近所の親父、といっても何かというと子供たちを仕切ろうとする他人、が、少年たちに自己流の洗礼を施す。物まねの洗礼儀式の後、自分は自宅のトイレに入り、子供たちに罪を告白、懺悔させる。その行為は、奇妙な快感をもたらす。やがて、神父役と懺悔する者との倒錯した関係を作り出し、凄惨な事態へ至る。60頁ほど。
憤死
金持ちの子で、自慢しい、選民意識が強く、女版の太ったスネ夫の佳穂。うさぎ当番を強要されたわがままな佳穂はエキセントリックに発作じみた行動で拒否する。ひねくれ者で冴えない私と彼女の余りもの二人は小学校で友達だった。やがて20歳になり、再会した佳穂は“出来上がっていた”。外国での暮らしのせいか、高慢さを私だけでなく、誰にでも常に解き放っていた。
失恋した佳穂は、怒りにまかせて自分の命に八つ当たりしてバルコニーから飛び降りる。それは、歴史上の人物が起こす、ただひたすら純度の高いわがままと、神々しいほどの激しい怒りが巻き起こす死、「憤死」という名にふさわしかった。
人生ゲーム
小6の少年3人が「人生ゲーム」で遊んでいるところへ、2階から下りて来た高校生がボードに3つの丸をマジックで書き込んでいう。「いいか、おれが丸をつけた場所で、おまえたちは必ず不幸になる。そのときはおれんとこ来い」。やがて、2人を不幸が襲うが、ボード上に丸を付けた箇所のとおりの事故だった。
初出:毎日新聞、文藝、群像など。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
あり得ない恐い話が続く。この作品は今一歩だが、ひょとしたら、綿矢りさは、こういう話がお似合いなのかもしれない。
一人の作家を読み続けると、勢いがありつつ不安定な処女作から、安定感のある作品へと成長していく様を見るものなのではないか? しかし、彼女の場合はどうもそのように一筋縄ではいきそうにない。作を重ねる毎に、見ず知らずの他人とメシを食べているような、そんな居心地悪さが強くなっていくような感触がある。
綿矢りさという作家は、その端麗な容姿から得られるステレオタイプなイメージより、ずっと複雑な作家なのかもしれない。彼女の作品を読み続けていると、そう思えてくる。
相変わらず文字の大きさと紙の厚さで稼ぐのはいかがなものか。
綿矢りさ(わたや・りさ)
1984年、京都市生まれ。
2001年、高校生のとき『インストール』で文芸賞受賞、を受けて作家デビュー。
2004年、『蹴りたい背中』で、芥川賞を史上最年少で受賞。
2006年、早稲田大教育学部国語国文学科卒業。
2007年、『夢を与える』
2010年、『 勝手にふるえてろ』
2011年、『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞
2012年、『しょうがの味は熱い』、『ひらいて』
2013年、『大地のゲーム』、、『憤死』