hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

柴田元幸『代表質問』を読む

2013年10月07日 | 読書2

柴田元幸著『代表質問 16のインタビュー』(朝日文庫2013年7月朝日新聞出版発行)を読んだ。

ギャラガー、カッチャー、パワーズ、リンク、ダイベック、村上春樹、ユアグロー、パルパース、吉田日出男、沼野充義、内田樹、岸本佐知子へのインタビューと、アーヴィングへの創作架空インタビューを収めている。

村上春樹『キャッチャー・イン・ザライ』を語る
極端なことを言ってしまえば、小説にとって意味性というのは、そんなに重要なものじゃないんですよ。大事なのは、意味性と意味性がどのように呼応し合うかということなんです。音楽でいう「倍音」みないなもので、その倍音は人間の耳には聞き取れないんだけれど、何倍音までそこに込められているかということは、音楽の深さにとってものすごく大事なことなんです。


1989年の村上春樹
僕らはね、実際的にはもう長いあいだ異議申し立てなんかしていないんですよ。・・・僕らが最後にノオと言ったのは一九七〇年です。・・・そのあいだ状況は僕らに対して何度もノオと言っている。石油ショックだとか、・・・。
 それに僕らが一九七〇年に叫んだノオだって、結果的には何の意味も持たなかった。・・・そこから始まっているんですよね、すべては。
・・・
僕らはもう共闘することはできないんですね。それはもう個人個人の自分の内部での戦いになってくる。というか、もう一度そこの部分から始める必要がある。


内田樹(たつる)『村上春樹にご用心』をめぐって
内田氏は、この本は村上春樹氏へのファンレターだという。内田さんが離婚してボロボロになって、批評性が高くなっていたとき、読んでしみじみ来た著者はレイモンド・チャンドラー、フィッツジェラルドと村上春樹だった。
三人の作家に共通するのは、フェアネスの大切さ。世の中にはいろいろ厳しいことがあるし、タフなことがあるけれども、やっぱり世の中を見る時には公正に見ないといけないんじゃないか、と。・・・邪悪な考えが渦巻いていたときに、やっぱり人間はフェアじゃなければいけない、と。・・・自分の前に嫌な人が出てきて、不愉快なことをした場合には、「どうしてこの人はこんなことをするんだろうか」ということをできるだけフェアな視点でみて、・・・。


なぜ村上作品が世界中で読まれるのか
柴田さんは、何らかのかたちで hit the nerve (神経を打つ、琴線に触れる)からという。
内田さんは、
この世界の秩序を担保するものは実はどこにも存在しない。にもかかわらず無意味な世界で生きてゆかなくちゃならない。正しい生き方のマニュアルが存在しえない世界で、人はなお正しく生きることができるか
を物語を通して問うている(一種の「逆聖書」)からだという。


福岡伸一氏の解説が変わっている。絵本「おさるとぼうしうり」の話が延々を続き、最後にちょこっと柴田さんへの賛辞がある。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

外国の作家や、村上春樹が考える小説のあり方、自分の生み出し方に関する生の声(?)が聞ける。編集者などによる普通の作家インタビューと異なり、柴田さんはかなり深いところを突いている。質問は翻訳に関してではなく、作品そのもの、あるいは作家の考え方に迫っている。



柴田元幸 : 1954年東京都生まれ。東京大学文学部教授、翻訳家。
1992年『生半可な學者』で講談社エッセイ賞
2005年『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞
2010年トマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞を受賞
訳書は、ポール・オースター(『ガラスの街』『幻影の書』『オラクル・ナイト』)、
ミルハウザー(『ナイフ投げ師』『マーティン・ドレスラーの夢』『エドウィン・マルハウス あるアメリカ作家の生と死』)、
ダイベック(『シカゴ育ち』)の主要作品、
レベッカ・ブラウン(『体の贈り物』『家庭の医学』)など多数。
著書に『ケンブリッジ・サーカス』『バレンタイン』『アメリカン・ナルシス』『それは私です』など。『翻訳教室
高橋源一郎と対談集『小説の読み方、書き方、訳し方






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