小林聡美著『読まされ図書室』(2014年12月20日宝島社発行)を読んだ。
女優・小林聡美の書き下ろしエッセイ。ただし、自分で選んだ本を読むのではなく、様々な職業や年齢の人が推薦した本を小林聡美が読まされて、書いたエッセイを集めた本なのだ。
14名の幅広い推薦者は、
飯島奈美(『十皿の料理』)、
森下圭子(『きのこ文学名作選』)、
デザイナーの皆川明(『ぺるそな』)、
井上陽水(松本清張「白梅の香」)、
林聖子(『虫類図譜』)、
吉村俊裕(『たまねぎたまちゃん』)、
よしもとばなな(佐野洋子『死ぬ気まんまん』)、
群ようこ(『神使像図鑑・神使になった動物たち』)、
高橋ヨーコ(オバケのQ太郎)、
長塚圭史(『茶色の朝』)、
酒井順子(『股間若衆・男の裸は芸術か』)、
俳人・宇多喜代子(『酒薫旅情』)、
石原正康(『うたかたの日々』)、
イラストレーター・さかざきちはる(『山のトムさん』)。
さかざきちはるは、文中に多くのイラストを描いており、さらに、「読まされ返し」として小林さんからの推薦本『島暮らしの記録』について、イラストと文を書いている。
また、よしもとばなな×小林聡美のスペシャル対談も写真付きで掲載されている。
小林さんは「やや長いあとがき」に書いている。
ひとり鎖国みたいな生活に、いい具合にぐりぐりと食い込んできたのが、読まされ本の数々であった。
・・・
凝り固まった自分の好みはことごとく無視され、とにかくそれまで手にとることのなかった・・・選んでくれた人の、頭と心をめぐる不思議で面白くて怖くて嬉しい旅がたくさんできた。
井上陽水は、
小林聡美さんの世界に松本清張はあまりなじまないような気がする。
と推薦コメントに書いている。
小林さんは、松本清張のみならず、推理小説、時代小説にも馴染みがなかった。少しも頭に入らないので、声に出して朗読しながら読み進めたら、文章の淡々とした調子が心地よくなったという。
街の男性裸体像などを論じた木下直之『股間若衆』(酒井順子氏推薦)には、若いときに夢中になったジョン・トラボルタを思い出す。
読んだ本の紹介や感想より、馴染みのない本から引き出されたことがらを語る部分の方が多い。まあ、これも良し。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ちょっと甘い評価だが、まずこの本の企画を評価したい。
どうもこのところ私の評価は「四つ星」が少なく、「五つ星」など絶えて見たことがない。上が「三つ星」で止まっていては、評価の意味が少なくなるので、今回から、多少甘めに、好まない人が多少いるだろうと思っても「四つ星」とすることにした。
好きな本のジャンルがほぼ決まり、いつも面白いと思う好みの著者が絞られてくると、小林さんも言っているように、ついつい鎖国状態になり自分の世界が少しずつ狭くなっていきがちだ。意識的に自分の枠から外れた本を多少無理しても読んでみると、中には新たな世界が広がることもある。少なくとも、知らなかった世界があることを知ることができる。
そもそも『きのこ文学名作選』など大多数の人は自分では読まないだろう。
推薦されている本で、私が読んだ記憶があるのは、『西郷札』と『死ぬ気まんまん』しかない。
戦後の世の中を風刺しているという『虫類図譜』という本も、著者の辻まことも知らなかった。この人、あのダダイスト辻潤と伊藤野江の子供だという。なにか、これだけ聞いただけで面白そうだ。