サラ・パレッキー著、山本やよい訳『ヴィクストーリーズ』(ハヤカワ・ミステリ文庫HM104-9、1994年9月早川書房発行)を読んだ。
シカゴの女探偵ヴィク(V.I.ウォーショースキー)が活躍する、既に邦訳された短編を集めた8編の短編集。
訳者あとがきにこうある。
ヴィクがミステリ界にデビューし・・・アメリカでの出版が1982年、・・・日本で1985年。
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ヴィクは・・・エリート弁護士と結婚したものの、「女は家庭を守るもの」という意識が抜けない夫と、自立心旺盛な彼女がうまく行くはずはなく、一年半で離婚。いまはサウス・ループに事務所をかまえ、金融調査専門の探偵をやりながら、気ままな一人暮らしを送っている。
アメリカでも、男性だけの世界に女性が進出し始めた、そんな時代の話だ。
「高目定石(たかもくじょうせき)」というタイトルの短編には、タカモク夫妻が登場する。訳者によれば、著者パレッキーの夫君は、シカゴ大学で物理学を教える背の高い髭ずらで、日曜日には碁をやるという。登場人物そのものだ。
ハイソな女性ブリジットが、ヴィクのおなじみの安いレストランに入って注文する。
「胚芽入りパンのトーストと、ブラックコーヒーだけでいいわ」彼女は冷ややかにいった。
「それから、バターはぜったい塗らないで」
「はいはい」バーバラ(ウエイトレス)がいった。「胚芽入りパンのトースト、バターのかわりにマーガリン。ほんの冗談よ、ハニー」ブリジットがまたも攻撃に移ろうとしたので、つけくわえた。「人にズケズケいうのが好きなら、人からいわれたときも我慢することを覚えなきゃ」
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
スポーツ好きとはいえ女性の探偵だ。ハードボイルド好きの私には、雲をつく大男と格闘しボコボコにされてぼやきながらまたチャンスを探すワイルドな暴力シーンが無いので物足りない。
プロの女性カメラマン、音楽家などの金持ちそうな登場人物や、豪邸やハイソなパーティーなどが続く。私は、ハイソサイヤティーの雰囲気など知りたくもない(知らないけど)。
訳者によれば、
社会をむしばむ巨悪を正面から見据えて、鋭く切り込んでいく長編に比べて、短編のほうはすこし軽めの仕上がりになっている。
私は著者の長編を読んだことがないのだが、これらのライトで雰囲気重視の短編からは、巨悪を追及する話は想像できない。
山本やよい
同志社大学文学部英文科卒、英米文学翻訳家
訳書、ウォレス『嘆きの雨』、パレッキー『ガーディアン・エンジェル』他