伊坂幸太郎著『サブマリン』(2016年6月30日講談社発行)を読んだ。
家庭裁判所の調査官で強い癖のある陣内と、後輩の武藤が活躍する2004年発行の『チルドレン』の12年ぶりの続編。
あの破天荒な陣内が、現在は家庭裁判所少年事件担当の調査官で、主任になっている。武藤は、幸運(?)にも異動で上司となった陣内の助けや、じゃま?を受けながら仕事する。同じ組には、後輩で感情が表に出ず、なにかと「そこまでする必要がありますか?」という木更津安奈(きさらず・あんな)がいる。
相変わらず、盲目の永瀬は冷静に分析し、二人を助ける。
武藤は、無免許運転のあげく歩行者をはねて死なせた19歳の棚岡佑真(たなおか・ゆうま)と面談するが、なかなか話に応じてくれない。棚岡は交通事故で両親を失い、さらに小学生の時に歩道に並んでいた友達が暴走した車にはねられて死んだことが分かった。その加害者の少年・若林を担当したのが陣内だった。
パソコン少年・小山田俊は、ネット上で暗躍する脅迫文投稿者に対して、ネット技術を駆使して匿名の投稿者を見つけ出し、逆に脅迫状を送り付けていた。結局自首した時の担当が陣内で、その後の「試験観察」は武藤の担当になった。俊がネットで殺人予告を繰り返す者が実際に犯行に移そうとしていると武藤に伝えてくる。
かっての交通事故被害者である棚岡がなぜ無免許運転で事故を起こしたかという謎が筋書の軸だ。そこに、俊が探し出した情報が加わる。
強弁が多い陣内の会話は例えばこんな具合だ。
「・・・あのな、自分のことは全部、みんなに理解してもらって当然とか思ってるんじゃねえだろうな。中学生じゃねえんだから」
「陣内さん、彼も当時は中学生だったんです」
「俺だって昔は中学生だったっての」
「それは関係ないです」
本書は書き下ろし。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)
軽い罰しか受けない少年犯罪について、家庭裁判所少年事件担当の調査官としての悩みが語られるが、もちろんこの小説にその答えが出てくるわけではない。ただ、被害を受けた少年の消えない想いと、罪を犯した少年の長く続く心の負い目が語られる。
読みどころは謎の解明ではなく、やはり陣内の相変わらずの変人ぶりだ。なんでもかんでも強引に決め付け、唯我独尊で無茶苦茶な論理を振りかざし、周囲にウンザリされるが、結局自分のペースに引き込む。言うことは滅茶苦茶で、ツッコミ役の武藤が矛盾をついても、あっさり流されて、全然こたえていない。形式にとらわれないので、一見見当違いな行動をとるが、結果的に本質に迫っている。
メモ
陣内は、トノサマバッタと名付けたのは平賀源内で、「細君」を「ほぞぎみ」と読むと思い込んでいた。担当した少年に馬鹿にされたので、その思い込みを事実と言い張れるように陣内は、小山田俊に依頼した。俊は、トノサマバッタと名付けたのは平賀源内とか、「細君」は「ほぞぎみ」とも読むとか、検索すれば出てくるように、ネット上に偽情報をさも本当であるかのように、アップさせた。
「罅」という漢字がでてくる。ふりがなが付いていないので読めなかった。調べると、「ひび」と読み、小さな割れ目のこと。
最後のページで、陣内は若林に言う。
「・・・俺たち調査官の仕事なんて細かくやったって意味はねえんだよ。事件起こした奴らはみんな、厳しく罰しておしまいにすりゃいい。そうだろ」
・・・
「でもな、そういうわけにもいかねぇんだ」陣内さんは溜め息をつく。・・・
すると陣内さんは少し不本意そうに、言った。「おまえみたいなのもいるからだよ」陣内さんはいつもの億劫そうな言い方をした。「俺たちはちゃんとやらないといけねえんだよ」・・・
僕は、「あの、陣内さんはちゃんとやってないですからね」ということだけは絶対的な使命として指摘したのだが、・・・。