能町みね子著『お話はよく伺っております』(文春文庫の16-7、2017年11月10日文藝春秋発行)を読む。
裏表紙にはこうある。
電車の中、井戸端会議、喫茶店やファーストフード店……どこの誰だか知らないけれど、偶然に街角で出会った目が離せない人々のトークを勝手にリポート(つまり盗み聞き)! 生々しい会話を集め、妄想し、ほくそえむ。そこには、計り知れないドラマが!? 単行本未掲載のエッセイ15本を新規収録の<実録&妄想>人間観察エッセイ。
まえがきにはこうある。
人の上に立つべき人間は、独断で物事を推し進めてはならない! 名もなき市民の、声なき声に耳を傾けること……いま、日本の為政者に求めれれていることはまさにこれである。……
……ただ隣にいて盗み聞きし、集めて、ほくそえみたい。私の理念はそれだけであります。
「存在と死」
電車の中で聞いた子供の質問。
「ねーお母さん、なんで人っているの?」「神様が作ったの?」「なんでおじいちゃんになったら死ぬの?」
そして、なんと、
「おじいちゃんは役に立たないから?」……
お母さんはおじいちゃんがどう役立ってるかがんばって教えようとしていた。そして具体例が出せずに苦悶していた。ああ、おじいちゃん……。
「19歳ののろけ」
「うちのほうなんか電車が1時間に1本しかないんだよ!」「□□の先なんて田んぼしか見えなくてぇ!」
あかぬけない顔で故郷の不便さを語りまくるA子の話がのろけに聞こえる。……
「私のカレシってぇ、朝起きてくれないしぃ、料理とかも全然しないしぃ~……」こういう、裏に隠れたラブラブ自慢が見え見えの愚痴と同じだ……!
「水ッ…」
公園で上司が部下に電話している。
「…アクションがお前は遅いんじゃないかって言ってるわけ俺はアクションがっ!」
「だから俺は言ったよね。昨日火曜日言った! で今日、水ッ……うん。ああ……うん。………うん」
チラチラ見ていた他の人全員がつっこみたくなった。
今日は火曜だよ!
初出:「Soup」2007年12月号~2013年8月号、単行本:2012年6月エンターブレイン刊
能町みね子(のうまち・みねこ)
1979年北海道生まれ、茨城県育ち。東大卒の元男性。
2006年、イラストエッセイ『オカマだけどOLやってます。』でデビュー。
著書に『くすぶれ! モテない系』『トロピカル性転換ツアー』『ほじくりストリートビュー』『雑誌の人格』など。「週刊文春」ほかでコラムやイラストを連載。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
電車の中で傍の人の会話が気になった人は多いと思う。続きを聞きたくなることもある。会話から垣間見られる他人に考え、生活には興味をそそられ、笑えるときもたまにある。
能町さんは教養があるくせに外れた道を行く人で、新お姉さんなので、男心も女心も知っている。面白がり屋で、観察眼が鋭いが、奢ったところがないので、話が面白い。それにしても、よく人の話を聞いている。電車に乗ったら、周りを見て、あの顔がないことを確かめないと。
私が相鉄線で海老名近くの畑が続く地域に入ってきたとき、前の男子高生が連れの女子高校生に、「この辺、畑ばかりだな」とつぶやき、女子高生は「そう言われると思ったよ。だから家に連れてくるのいやだったんだよ」と嘆いていた。
江国香織さんは小説のために女子高生の会話を聞きに電車によく乗っていた。たまにはと、男子高校生二人のそばに立ってみた。二人は何駅も無言のままで、降りる間際に、「腹減ったな」「うん」と、これだけだったと書いていた。