早瀬耕著『未必のマクベス』(ハヤカワ文庫JA1294、2017年9月25日早川書房発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
IT企業Jプロトコルの中井優一は、東南アジアを中心に交通系ICカードの販売に携わっていた。同僚の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、帰国の途上、澳門(マカオ)の娼婦から予言めいた言葉を告げられる―「あなたは、王として旅を続けなくてはならない」。やがて香港の子会社の代表取締役として出向を命じられた優一だったが、そこには底知れぬ陥穽が待ち受けていた。異色の犯罪小説にして、恋愛小説。
タイトルの「未必のマクベス」とは、「必ずマクベスのようになるとは思わないが、そうなっても仕方ないと思っていた」との意味だろう。
王となると言われた主人公・中井は、マクベスのようにかりそめの王を殺害して王座を奪うのか? 中井は、あだ名は「バンコー」である友人・伴浩輔を手にかけ、中井の恋人・由記子は「マクベス夫人」になって心が壊れ、最後には自らの命も失うのだろうか。
中井優一と鍋島冬香
高校入学から卒業まで3年間、二人は同じクラスで、彼女は常に彼の後ろの席に座っていた。「三年とも同じクラスなんて、すごいと思わない?」と話しかける鍋島に、中井は「確率としては25分の1だよ」と無理に素っ気なく応える。(32頁)
二人は昔の男女にありがちなぎこちない関係で、冬香はあまににも稚拙な方法で優一に気持ちを伝え、彼は彼女を無理にないがしろに扱う。それなのに、中井は、大学でも、会社でも、ログイン・パスワードは、鍋島の名前をもとにしていて、パソコンを開けるたびに彼女を思い出す。冬香も……。
2014年9月に早川書房から単行本として刊行。
早瀬耕(はやせ・こう)
1967年東京生まれ。一橋大学商学部卒。
1992年、卒論をもとにした『グリフォンズ・ガーデン』で作家デビュー
2014年、22年ぶりの本書『未必のマクベス』で大藪春彦賞候補。
2016年、短編『彼女の時間』で星雲賞日本短編部門参考候補作
2018年『プラネタリウムの外側』
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
今まで読んだミステリーとは何かが違う。中心となる舞台が香港、マカオで、主な登場人物がバラバラと死んでゆく、などだけではなく、今までのミステリーとは異なる何か異質な味が漂う。
小さな問題はゴロゴロしているが、面白く、読みごたえがある。
確率に基づく理系の話しぶり、高校からの秘めた想い、男性に対してあまりにも純粋な女性たち、人を殺しても平然としている気持ち、すべてに無感動な主人公、といったばらばらな要素が(結果的に?)混じりあい何か新しい味を出している。
ごく普通のサラリーマンと思える主人公、高校同級生の〇、会社同期の〇がいずれも平気で人を殺し、女性の殺し屋2人、あきらかに金正男という男も登場する変な小説!
この本に続けて読んだ『蟻の菜園』に登場する謎の女性の名前は「冬香」で、混乱してしまった。
気に入った表現
殺し屋は仕事をするだけで、依頼者が殺人したと言える。「銃を使って人を殺しても、銃に罪がないのと同じだ。」