黒川伊保子著『妻のトリセツ』(講談社+α新書 800-1 A、2018年10月18日講談社発行)を読んだ。
「はじめに」
夫から申し立てた離婚動機で急上昇(第2位)は、精神的虐待だ。具体的には、
いつもイライラしている、口調がキツイ、いきなりキレる、急に怒り出す、何をしても怒られる、口をきかない、無視する、夫の分だけ家事をしない、人格を否定するような言葉をぶつけてくるといった妻の言動を指す。
「第1章 辛い記憶「ネガティブトリガー」を作らない
女性脳は、体験記憶に感情の見出しをつけて収納しているので、一つの出来事をトリガーにして、その見出しをフックに何十年分もの類似記憶を一気に展開する能力がある。…(例)「つわりがひどくてふらふらだった私に、あなたなんて言ったか覚えてる?」(そのときの子供は既に30代)
女性脳の、最も大きな特徴は、共感欲求が非常に高いことである。「わかる、わかる」と共感してもらえることで、過剰なストレス信号が沈静化するという機能があるからだ。…逆に共感が得られないと一気にテンションが下がり、免疫力も下がってしまうのだ。
「第2章 ポジティブトリガーの作り方」
プロセス指向型で、成果よりも「これまでの道のり」に意識が集中する女性脳にとって記念日は、記憶の芋ずるを引きずり出す気満々の日。
男性脳は、「一番」と言われるのが好き。…しかし、女性脳が好きなのは、唯一無二。…「君が一番きれいだ」などと言いがちだが、比べる対象がいるだけで、女はなんとなく不愉快な気持ちになる。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
かなり女性側の一方的言い分だが、話は明快でわかりやすい。わが身に照らして、残念ながらかなり説得力もある。ただ、内容は、『女の機嫌の直し方』+αだ。
女性脳と男性脳については、専門家からそんな大きな違いはないと指摘されているが、読者は物理的差などどうでもよいので、それぞれ、女性と男性と読み替えればいいだけの話だ。
女性はこうこうと、決めつける箇所も多いが、話を分かりやすく、明快にするために、新書レベルではしかたない。
この本を読んで改めて感じ入ったのは、女性はややこしいということ。
まず、女性は、相手を思いやる能力が高い。女性は、「相手を大切に思い、関心があれば、察することはできるでしょうに」という。ところが男性は察することは苦手だ。愛の深さとは無関係だ(と思う)。
女性は、相手をおもんばかり、まず自分の意見は抑えて、相手に賛成し……など、要するに言ってることと思っていることが違うことが多い。「そんなの当たり前じゃない。言ってることと思ってることが同じ人なんていないでしょ」と言う。これには、単純な男性はついていけません。ちゃんと、裏まではっきり説明してください。男性は表をぼんやり見ているだけなんですから。
なじられても、ともかく真摯に謝る。それしかない。男性は理由や原因を言い募りがちだが、それを言ってはだめだという(p11)。
これは男性には辛い。我慢し、謝ることができるとしたら、その女性をいとおしいと思っていて、「なじる人は傷ついている」と知っているからだろう。ということは、女性はここまでひどいことをしても、まだ謝ってくれるのは、本当に私を愛してくれているのだと感じるために、むごい仕打ちをしているのだろうか?
理不尽と思われるこの本のようなことに従うのは、男性にとっては厳しい。しかし、そうしなければ平和は訪れないのならば、愛する男性はそうせざるを得ない。この本は、その女性をいとしく思うという前提での話なのだ。 愛は厳しい!
黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、随筆家。
奈良女子大学理学部物理学科卒業。富士通ソーシアルサイエンスラボラトリにて、人工知能(AI)の研究開発に従事。
2003年(株)感性リサーチを設立、同社代表取締役に就任。脳機能論とAIの集大成による語感分析法を開発し、マーケティング分野に新境地を開学した感性分析の第一人者。
年間100回を超える講演・セミナーを行う。
著書に『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』 (新潮新書) 、『恋愛脳』『夫婦脳』『家族脳』(新潮文庫)、『日本語はなぜ美しいのか』(集英社新書)、『「ぐずぐず脳」をきっぱり治す! 』(集英社)、『キレる女 懲りない男――男と女の脳科学』(ちくま新書)、『英雄の書』(ポプラ社)、『女の機嫌の直し方』など。