高田郁『花だより みをつくし料理帖 特別巻』(時代小説文庫た19-20、2018年9月8日角川春樹事務所発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
澪(みお)が大坂に戻ったのち、文政五年(一八二二年)春から翌年初午にかけての物語。店主・種市とつる家の面々を廻(めぐ)る、表題作「花だより」。澪のかつての想いびと、御膳奉行の小野寺数馬と一風変わった妻・乙緒との暮らしを綴った「涼風あり」。あさひ太夫の名を捨て、生家の再建を果たしてのちの野江を描いた「秋燕(しゅうえん)」。澪と源斉夫婦が危機を乗り越えて絆を深めていく「月の船を漕ぐ」。シリーズ完結から四年、登場人物たちのその後の奮闘と幸せとを料理がつなぐ特別巻、満を持して登場です!
2014年に大団円を迎えた完結した「みをつくし料理帖」シリーズ。著者の作家生活10周年の記念作品としてまさかの続編「花だより」が刊行された。
「花だより ―愛し浅蜊佃煮」
江戸の料理屋「つるや」の店主、74歳の種市が占いで来年の桜は見られないと告げられた。人気戯作者・清右衛門、版元の坂村堂と、看板婆の「りう」が連れだって大坂の澪に会いに行く。
このメンバーの東海道道中が面白くないわけがない。種市のぼやきぶり、清右衛門のわがままぶり、怒りぶり、律儀さが懐かしく楽しくなる。
「涼風あり ―その名は岡太夫」
昔、澪が慕っていた小松原(小野寺数馬)の妻となった乙緒(いつを)。父の教えを守り、まったくの無表情を貫く乙緒は、嫁いで6年、嫡男も授かり、義母かつて澪と夫が想いあっていたいたことを知り、悩む。
謎の言葉、岡太夫とは?
「秋燕 ―明日の唐汁」
澪の幼馴染で、江戸で絶大な人気を誇った「あさひ太夫」だった野江は、大洪水で失われ「高麗橋淡路屋」を再建させた。再建時の約束、3年以内に男の店主を立てるという期限が迫っていた。しかし、野江は命を捨てて野江を助け出してくれた「又次」を忘れられない。
ここで初めて、野江と又次の出会い、「あさひ太夫」になった経緯が語られる。「又次」かっこよすぎ!野江も。
野江のせりふ。「このおひとに指一本触れてみなはれ」「この顔に傷をつけて、売り物にならんようにしますで」
契れば叶う男女の情、というのではなかった。抜き身の刃の上を歩いて生きてきた者同士、吉原という地獄で巡りあい、互いを生きる理由としたのだった。
「月の船を漕ぐ ―病知らず」
澪は大坂で「みをつくし」という料理屋をやっていたが、大家の代替わりで店を閉じることになる。夫の源斉は流行の疫病ころりの治療で疲れ果て、無力感と過労で倒れ、月も星も無い闇夜の海で船を漕いでいる夢を見る。
しばらく源斎だけの料理人となった澪だが、一向に食欲が出てこない。源斎の母に子どもの頃の好物を訊ねた澪の手紙への返事に大きな封書が届く。そして…。
「巻末付録 澪の料理帖」
「特別付録 みをつくし瓦版」
本書は時代小説文庫(ハルキ文庫)の書き下ろし。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
みをつくし料理帖シリーズのファンなら必読の書だ。この本を読まなければ、シリーズは完結しないのだから。シリーズを読んでいない人は、これを機会に一巻から読んで欲しい。
完成した各キャラクターが生き生きと動き出し、弾むように話が進む。野江の太夫時代の話も感動的だし、野江も又次も、任侠映画のようにかっこよすぎだ。
著者はこのシリーズをもう書くことはないと明言している。「みをつくし瓦版」で「続編の予定は?」の質問に対し、「名残惜しいのは私も同じですが、この特別巻ののちは、皆さまのお心の中を、澪たちに住まいとさせてくださいませ。」と書いている。
残念だが、「ありがとうございました」とお礼を言いたい。こんな本に、こんな著者に出会えて幸せだった。
高田郁(たかだ・かおる)
1959年、兵庫県宝塚市生れ。中央大学法学部卒。
1993年、川富士立夏の名前で漫画原作者としてデビュー。高田郁は本名。
2006年、短編「志乃の桜」
2007年、短編「出世花」(『出世花 新版』、『出世花 蓮花の契り』)
2009年~2010年、『みをつくし料理帖』シリーズ『第1弾「八朔の雪」、第2弾「花散らしの雨」、第3弾「想い雲」』
2010年『 第4弾「今朝の春」』
2011年『 第5弾「小夜しぐれ」』
『 第6弾「心星ひとつ」』
2012年『 第7弾「夏天の虹」』
『みをつくし献立帖』
2013年『 第8弾「残月」』
2016年『あきない世傳 金と銀 源流篇』、『あきない世傳 金と銀 二 早瀬篇』、『あきない世傳 金と銀 三 奔流篇』
その他、『 ふるさと銀河線 軌道春秋』『銀二貫』『あい 永遠に在り』
エッセイ、『晴れときどき涙雨』