柚木麻子著『マジカルグランマ』(2019年4月30日朝日新聞出版発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
いつも優しくて、穏やかな「理想のおばあちゃん」(マジカルグランマ)は、もう、うんざり。夫の死をきっかけに、心も体も身軽になっていく、75歳・正子の波乱万丈。
若い頃に女優になったが結婚してすぐに引退し、主婦となった正子。
映画監督である夫とは同じ敷地内の別々の場所で暮らし、もう五年ほど口を利いていない。
ところが、75歳を目前に先輩女優の勧めでシニア俳優として再デビューを果たすことに!
大手携帯電話会社のCM出演も決まり、「日本のおばあちゃんの顔」となるのだった。
しかし、夫の突然の死によって仮面夫婦であることが世間にバレ、一気に国民は正子に背を向ける。
さらに夫には二千万の借金があり、家を売ろうにも解体には一千万の費用がかかと判明する。
亡き夫に憧れ、家に転がり込んできた映画監督志望の杏奈、
パートをしながら二歳の真実ちゃんを育てる明美さん、
亡くなった妻を想いながらゴミ屋敷に暮らす近所の野口さん、
彼氏と住んでいることが分かった一人息子の孝宏。
様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、
自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくが――
「理想のおばあちゃん」から脱皮した、
したたかに生きる正子の姿を痛快に描き切る極上エンターテインメント!! 「週刊朝日」連載の書籍化
題名の「マジカルグランマ」は、理想的ステレオタイプのおばあさんの意味。
正子:「尾上まり」の名で脇役活躍。現在旧姓の本名「柏葉正子」で一時「ちえこばあちゃん」としてブームに。
紀子ねえちゃん:正子あこがれの先輩大女優
浜田壮太郎:正子の夫の映画監督。正子は4年間口をきいていない。
孝宏:正子の息子。パートナーは行政書士の清野(せいの)。
設楽(したら):脇役専門のシニア俳優派遣事務所経営。
陽子:正子の幼馴染。街で唯一の映画館の一人娘。
間島明美:裏に住む武の嫁。娘は真美。
田村杏奈(あんな):壮太郎のファンで映画監督志望。正子の家に同居。
野口:妻のけいこさんが亡くなってからゴミ屋敷に。
初出:「週刊朝日」2018年5月~2019年2月に連載。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
優しく穏やかなおばあちゃん(マジカルグランマ)が、突如目覚めて思い切った行動を起こす物語。前半は着々と新しいおばあちゃんへの道を進んでいくのだが、後半一気にハチャメチャに突っ走る。「ちょっとどうなのよ、それ」と言いたくなることが増え、『ランチのアッコちゃん』も著者も好きだが、この作品で直木賞はあげないで欲しいと思ってしまう。
なぜ70代の女性を書いたかと聞かれて。
でも、なぜかエンタメの世界で描かれるお年寄りって、和服を着ていませんか? 私は和服を着ているお年寄りってあんまり見たことがないんですよ。エンタメの中で自分のことを「わし」と呼ぶおじいさんも多いけれど、私は実際には会ったことがありません。そろそろフィクションで描かれるお年寄りのイメージをアップデートしてもいいのでは、と思うようになりました。
自宅をお化け屋敷にする発想
最初は、正子が自分で事務所を作って芸能界を席捲していく話を考えていたんです。でもその頃、保育園に40個落ちたりと大変で。家事と育児と執筆に追われ、家と無認可保育園の往復をするだけで、街から出ない生活を送っていたんです。芸能界の話を書こうにも取材に出かけることができなかった。それで、この小説も正子が家の周囲から出ない話になりました。
「マジカル」について
正子が気づくのは、自分は世間が求める「マジカルグランマ(=理想のおばあちゃん)」を演じていた、ということです。作中でも言及されますが、白人が作ったフィクションの中で、黒人が白人にとって都合よく献身的な存在として描かれることを指す「マジカルニグロ」という言葉がヒントになっている。
「マジカル女性作家」:「女性の作家は辛い恋愛をして孤独を噛みしめて、それを読者に差し出せ」「幸せになっちゃ終わりだ」
「マジカル女性編集者」:お酒の席では豪快に飲んで、セクハラを受けても動じないことを求められてしまう。
「マジカル書店員」:収入のことは度外視して、残業もいとわずに好きな本のために捧げるイメージ。