hiyamizu's blog

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青山文平『泳ぐ者』を読む

2021年10月17日 | 読書2

 

青山文平著『泳ぐ者』(2021年3月15日新潮社発行)を読んだ。

 

新潮社の内容紹介

離縁された妻はなぜ三年半も経って、病床の前夫を刺したのか。徒目付の片岡直人は「真相」を確信するが、最悪の事態に。折も折、耳に入る奇妙な噂。毎日決まった時刻に、冷たい大川を不恰好に泳ぐ男がいる。何のために? 事件の予兆、男の謎めいた笑み、仕掛けられた罠。「なぜ」の奥に、直人は人の心の「鬼」を見た――。時代本格ミステリー。

 

いわゆるホワイダニットWhydunitと呼ばれる“なぜ”を問うタイプのミステリ『半席』が『このミステリーがすごい! 2017年版』4位で注目された。あれから5年、ようやく続編である『泳ぐ者』で、“なぜ”を問われぬ世界に、“なぜ”を探る徒目付・片岡直人が帰ってきた。

 

 

片岡直人は、文化年間、徒目付を通過点として、懸命に勘定所を目指し、子供にも職を引き継げる旗本になろうとしていた。直人は、敬愛する徒目付組頭の内藤雅之からの命で、表の御用とは別の頼まれ御用での、なぜを追い続けようと決心する。旗本への道を諦めても。

 

藤尾信久を刺殺した離縁された元妻・菊枝が罪を認めて事件は解決した。しかし、直人は、なぜ彼女が離婚後3年半も経ってから元夫を刺殺したのか? 妻を大切に扱っていた信久が、病を得てからなぜ菊枝を離婚したのか? 菊枝は罪を認めているが、動機については全く語らない。直人は、問いかけにケンモホロロナ菊枝の心に入り込み、「なぜ」を明らかにしようと、奮闘する。

 

初冬の寒さの中、毎日、大川を泳いで渡る男・蓑吉が見物人を集めていた。理由を聞くと、内藤新宿で商う古手(古着)商売が持ち直すように願掛けで大川を泳いで往復いると答える。一応納得した直人だったが、事件が起こり、直人は東三河の地まで足を延ばすことになる。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

犯人は誰かを探すのではなく、なぜ犯行を犯したのかを調べるのは、表面的事実だけに留まらず、話が深く潜行していくので面白い。しかし、私には菊枝の考えも、蓑吉の考えも、完全には納得できるものではなかった。

 

主人公の直人は謎解きに魅力を感じて出世の話を断ってしまうのだが、独身で背負っているものもなく、重い悩みがなく、その分、人間的魅力も濃くないので、話が単純になってしまっている。

 

著者は江戸時代の知識が豊富で、いたるところに蘊蓄が盛り込まれている。わざとらしくはなく、自然な形なのだが、こちとらは歴史の勉強をするつもりで読んでいる訳では無いので、煩わしい。

 

 

片岡直人:主人公。監察を担う御家人である徒目付(かちめつけ)。29歳。

内藤雅之:徒目付組頭。直人の上役。

喜助:神田多町の居酒屋・七五屋の店主。漁師。

遠山左衛門尉景晋(かげみち):御目付。文化2年長崎で呂西亜(ロシア)のレザノフと交渉。

三谷一利:勘定組頭の筆頭格。藤尾信久を信頼。

沢田源内:偽系図を商う浪人多町一の比丘尼(びくに)(実は公家・羽林家(うりんけ)晶子)のヒモ。

藤尾信久:百姓上がりで役高350俵の勘定組頭となる。隠居し重病の65歳で、60歳の妻・菊枝を離縁。

菊枝:大番を務める家の3女で信久に嫁ぐ。美人。63歳の時、重い病の信久を懐剣で刺し殺した。姉は佳津。

藤尾正嗣:信久と菊枝の子。37歳。勘定組頭。父には可愛がられたが、母は冷たかった。

 

蓑吉:内藤新宿で商う古手(古着)商売が持ち直すように願掛けで大川を泳いで往復していた。

川島辰三:御徒(幕臣)。水練の相方の仁科耕助を鍛えようと水死させた。

菊地新兵衛:御徒。川島の振る舞いを直人に説明。

 

 

青山文平(あおやま・ぶんぺい)

1948(昭和23)年、神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。

2011(平成23)年、『白樫の樹の下で』で松本清張賞を受賞しデビュー
2015年、『鬼はもとより』で大藪春彦賞
2016年、『つまをめとらば』で直木賞を受賞。

他に、『かけおちる』『伊賀の残光』『半席』、本書『泳ぐ者』『励み場』『遠縁の女』『江戸染まぬ』など。

 

 

文化4年択捉(えとろふ)の紗那(しゃな)にあった幕府の会所(230人)が魯西亜の軍艦2隻(70人)に襲われ完敗した。(p26)

 

旗本とは公方様へのお目見えが叶う御用を務める者を言う。ただし、御目見以上の御用が一度だけでは一代御目見の半席となり、当人は旗本になっても子は御家人のままに据え置かれる。(p29)

 

御徒(おかち):将軍または大名の行列の先頭で警戒する。ふだんは城内の番所で警備に当たる。

 

茣蓙(ござ)

蝟集(いしゅう):一か所に群がり集まること。「蝟」は、ハリネズミのこと

比丘尼:尼僧(尼)

科人(とがにん):罪人。咎人

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