(2日のつづき)
ここで210円をケチると後悔しそうなので、入る。
すぐ右の階段を上ると、年配の男性スタッフ2名が愛想よく迎えてくれた。私のこの入館料がスタッフ氏の給料になると思えば、このおカネは惜しくない。
「ささ、ビデオをご覧ください」
スタッフ氏が恭しく言い、私はシアターの前に腰かけた。先着は年配の夫婦で、さっき参道ですれ違った。
ビデオは徳川幕府と有馬氏の関係を説いたもので、ものの5分で終わったが、まだほかにも2本あった。これはなんだかんだで時間がかかりそうである。
ようやくビデオ上映が終わり、館内を回る。私は老眼がひどく、あまりモノを見る気がしないので、ふんふんと頷きながらも、心は上の空である。
ただ、競馬の有馬記念は、本当にこの有馬氏から来ていると知った。
記念館を後にし、梅林寺に向かう。JRの線路を越えると荘厳な建物が見えてくる。ここは有馬一族の菩提寺で、お堂の中には重要文化財がたくさんあるらしい。
私は建物の歴史云々よりも、建物の造形、構造に惹かれる。木造建築は、日本が世界に誇れる技術だと思う。
その先の水天宮に急ぐ「水天宮」といえば東京のそれが有名だが、実は久留米のここが総本山、と観光案内所のお姐さんは教えてくれた。
その水天宮は、住宅地の一角にあった。私は正面の鳥居からではなく、脇から入ってしまったようだ。
「総本山」の先入観があるからかもしれないが、社殿は威風堂々としており、島根県の出雲大社、福井県の永平寺などに通ずる静謐さがあった。
境内の前には、赤ちゃんを抱いたご家族がいた。水天宮といえばお宮参りが対句で、生後1ヶ月ほどの赤ちゃんを連れてお参りする。私には縁がなかったが(まだ諦めていないが)、ここまで来てお参りをしないわけにはいかない。
お賽銭を投じ、社務所で御朱印を所望した。ここのそれは2種で、いずれも500円。ここで何を血迷ったか、私は2種ともお願いしてしまった。
最近の神社はなかなかにアレで、御朱印などは1種類でいいのにいろいろ揃え、コレクターの蒐集欲を刺激する。私はコレクターではないが、まんまと狙いにハマってしまった。
水天宮を後にし、とりあえず昼食である。だが、食堂の類がない。そうこうするうち、駅に着いてしまった。
地方を観光して、東京が便利だと思うのは、飲食店の多さである。牛丼専門店なら各駅にありそうで、食事にはまったく困らない。しかし地方は、飲食店があまりない。
駅に入っても飲食店が見つからなかったが、先ほどの観光案内所の先に、食事処界隈があった。だが準備中のところもあり、私の守備範囲なのはとんとつラーメン店くらいだ。それで、そこに入った。
「あっさりとんこつラーメン」を頼む(800円)。ラーメンはふつうに美味かったが、ふつうの美味さで800円はちょっと高いと思った。
時刻は午後1時を過ぎた。この時間にまだ久大本線に乗れてないとは少なからぬ誤算で、やはりきのうの内に久留米まで来ておくべきだった。愛弓りょうを鑑賞している場合ではなかったのである。
改札口の横には、立派な門松が飾られていた。年末年始のよくある光景だが、クリスマスを飛び越えて正月の飾りとは珍しい。
13時13分発、日田行きの久大本線に乗る。車内はまあまあの混み具合で、とりあえず立って行く。うきはで余裕ができたので、そこから座っていった。
夜明着。2年前はここでBRTひこぼしラインに乗り換えたが、今回はこのまま乗り通す。
14時22分、定刻を1分遅れで日田着。日田は鄙びた通りがいくつもあり、ここも散策に絶好なのだが、以前訪れたので、先を急ぐ。14時39分発の大分行きに乗った。
さて問題はここである。このまま由布院に行けば、15時53分着。いまさら金鱗湖に行っても仕方ないが、その途中にある、シャレた喫茶店には再訪したい。過去に2回訪れ、店備え付けのお客様ノートに、何かを書いた覚えがある。
だが私は、豊後森で降りた。ここ豊後森からは宮原線が分岐していたが、1984年12月1日に全線廃止された。その遺構で最大にして最高のものが、駅付近にある扇形の機関庫である。
いつも久大本線に乗ると、この駅を素通りしていた。そのたびに機関庫を横目にし、途中下車したい欲望にかられていたのである。今回やっと、念願が叶ったわけだ。
立派な駅舎を出て右に行くと、数分のところに機関庫はあった。操業停止から数十年経っているが朽ちてはおらず、よく手入れされていると思う。
その先端にはSLが留め置かれ、いまにも動き出しそうだ。あたりには男性がひとりいるのみなので、私は遠慮なく施設を撮影した。
隣接する建物は鉄道ミュージアムで、これは100円かかる。
館内は、旧宮原線の資料を中心に置かれていた。が、そこまで資料は多くなかった。もうちょっと何か、目玉資料が欲しかったところである。
これで観光は終わりだが、まだ午後4時にもなっていない。次の大分行きは17時32分で、だいぶ時間がある。それこそ喫茶店の類があればいいが、それらしき店は閉まっていた。
といって、ほかにこれといった店もなさそうである。後先考えずここで下車したが、ここで時間を持て余すくらいなら、由布院まで行ってしまったほうがよかった。よく、「行き当たりばったりの旅が楽しい」とイキっている人がいるが、私の経験上、事前にしっかり計画を練って行ったほうが観光のロスがなく、楽しい旅になる。私のこんな旅はダメなのである。
私は幹線から外れた道路を歩いてみた。しかし行けども行けども何もない。地元の高校があったが、その向かいは旧ガソリンスタンドだった。ずいぶん妙な取り合わせで、このガソリンスタンドが現役時は、シュールな光景だっただろう。
仕方ないから引き返し、JRの線路を越えて、その先に行く。そこはかなり開けていて、道幅も広かった。両端には商店の類も多い。
下校中の女子高生が、傍らの雪を丸めて、友達に投げている。「キャッキャッ、やめてー」とはじけた声が飛ぶ。アオハルである。
ファミマがあったので、ガリガリ君を買い、駅に戻った。
次の列車まで、まだ時間がある。だが、列車待ちの同志が何人かいて、よかった。
……? しかし、さっきから辺りが小便臭い気がする。これは何だ?
(つづく)
ここで210円をケチると後悔しそうなので、入る。
すぐ右の階段を上ると、年配の男性スタッフ2名が愛想よく迎えてくれた。私のこの入館料がスタッフ氏の給料になると思えば、このおカネは惜しくない。
「ささ、ビデオをご覧ください」
スタッフ氏が恭しく言い、私はシアターの前に腰かけた。先着は年配の夫婦で、さっき参道ですれ違った。
ビデオは徳川幕府と有馬氏の関係を説いたもので、ものの5分で終わったが、まだほかにも2本あった。これはなんだかんだで時間がかかりそうである。
ようやくビデオ上映が終わり、館内を回る。私は老眼がひどく、あまりモノを見る気がしないので、ふんふんと頷きながらも、心は上の空である。
ただ、競馬の有馬記念は、本当にこの有馬氏から来ていると知った。
記念館を後にし、梅林寺に向かう。JRの線路を越えると荘厳な建物が見えてくる。ここは有馬一族の菩提寺で、お堂の中には重要文化財がたくさんあるらしい。
私は建物の歴史云々よりも、建物の造形、構造に惹かれる。木造建築は、日本が世界に誇れる技術だと思う。
その先の水天宮に急ぐ「水天宮」といえば東京のそれが有名だが、実は久留米のここが総本山、と観光案内所のお姐さんは教えてくれた。
その水天宮は、住宅地の一角にあった。私は正面の鳥居からではなく、脇から入ってしまったようだ。
「総本山」の先入観があるからかもしれないが、社殿は威風堂々としており、島根県の出雲大社、福井県の永平寺などに通ずる静謐さがあった。
境内の前には、赤ちゃんを抱いたご家族がいた。水天宮といえばお宮参りが対句で、生後1ヶ月ほどの赤ちゃんを連れてお参りする。私には縁がなかったが(まだ諦めていないが)、ここまで来てお参りをしないわけにはいかない。
お賽銭を投じ、社務所で御朱印を所望した。ここのそれは2種で、いずれも500円。ここで何を血迷ったか、私は2種ともお願いしてしまった。
最近の神社はなかなかにアレで、御朱印などは1種類でいいのにいろいろ揃え、コレクターの蒐集欲を刺激する。私はコレクターではないが、まんまと狙いにハマってしまった。
水天宮を後にし、とりあえず昼食である。だが、食堂の類がない。そうこうするうち、駅に着いてしまった。
地方を観光して、東京が便利だと思うのは、飲食店の多さである。牛丼専門店なら各駅にありそうで、食事にはまったく困らない。しかし地方は、飲食店があまりない。
駅に入っても飲食店が見つからなかったが、先ほどの観光案内所の先に、食事処界隈があった。だが準備中のところもあり、私の守備範囲なのはとんとつラーメン店くらいだ。それで、そこに入った。
「あっさりとんこつラーメン」を頼む(800円)。ラーメンはふつうに美味かったが、ふつうの美味さで800円はちょっと高いと思った。
時刻は午後1時を過ぎた。この時間にまだ久大本線に乗れてないとは少なからぬ誤算で、やはりきのうの内に久留米まで来ておくべきだった。愛弓りょうを鑑賞している場合ではなかったのである。
改札口の横には、立派な門松が飾られていた。年末年始のよくある光景だが、クリスマスを飛び越えて正月の飾りとは珍しい。
13時13分発、日田行きの久大本線に乗る。車内はまあまあの混み具合で、とりあえず立って行く。うきはで余裕ができたので、そこから座っていった。
夜明着。2年前はここでBRTひこぼしラインに乗り換えたが、今回はこのまま乗り通す。
14時22分、定刻を1分遅れで日田着。日田は鄙びた通りがいくつもあり、ここも散策に絶好なのだが、以前訪れたので、先を急ぐ。14時39分発の大分行きに乗った。
さて問題はここである。このまま由布院に行けば、15時53分着。いまさら金鱗湖に行っても仕方ないが、その途中にある、シャレた喫茶店には再訪したい。過去に2回訪れ、店備え付けのお客様ノートに、何かを書いた覚えがある。
だが私は、豊後森で降りた。ここ豊後森からは宮原線が分岐していたが、1984年12月1日に全線廃止された。その遺構で最大にして最高のものが、駅付近にある扇形の機関庫である。
いつも久大本線に乗ると、この駅を素通りしていた。そのたびに機関庫を横目にし、途中下車したい欲望にかられていたのである。今回やっと、念願が叶ったわけだ。
立派な駅舎を出て右に行くと、数分のところに機関庫はあった。操業停止から数十年経っているが朽ちてはおらず、よく手入れされていると思う。
その先端にはSLが留め置かれ、いまにも動き出しそうだ。あたりには男性がひとりいるのみなので、私は遠慮なく施設を撮影した。
隣接する建物は鉄道ミュージアムで、これは100円かかる。
館内は、旧宮原線の資料を中心に置かれていた。が、そこまで資料は多くなかった。もうちょっと何か、目玉資料が欲しかったところである。
これで観光は終わりだが、まだ午後4時にもなっていない。次の大分行きは17時32分で、だいぶ時間がある。それこそ喫茶店の類があればいいが、それらしき店は閉まっていた。
といって、ほかにこれといった店もなさそうである。後先考えずここで下車したが、ここで時間を持て余すくらいなら、由布院まで行ってしまったほうがよかった。よく、「行き当たりばったりの旅が楽しい」とイキっている人がいるが、私の経験上、事前にしっかり計画を練って行ったほうが観光のロスがなく、楽しい旅になる。私のこんな旅はダメなのである。
私は幹線から外れた道路を歩いてみた。しかし行けども行けども何もない。地元の高校があったが、その向かいは旧ガソリンスタンドだった。ずいぶん妙な取り合わせで、このガソリンスタンドが現役時は、シュールな光景だっただろう。
仕方ないから引き返し、JRの線路を越えて、その先に行く。そこはかなり開けていて、道幅も広かった。両端には商店の類も多い。
下校中の女子高生が、傍らの雪を丸めて、友達に投げている。「キャッキャッ、やめてー」とはじけた声が飛ぶ。アオハルである。
ファミマがあったので、ガリガリ君を買い、駅に戻った。
次の列車まで、まだ時間がある。だが、列車待ちの同志が何人かいて、よかった。
……? しかし、さっきから辺りが小便臭い気がする。これは何だ?
(つづく)