きのう未明、ヘンな夢を見た。棋友のKun氏と二輪車でふたり旅をしていて、高原の宿場町を訪れていた。宿場町の突端が崖になっていて、そこから見降ろす風景が素晴らしい。雲ひとつない夏空が綺麗だった。Kun氏は手持ちのコンパクトデジカメで、いろいろ写真を撮っていた。
その近くの食堂に明石家さんまが出没して、客の笑いを取っていた。
なぜこのふたりが出てきたのか。Kun氏には日頃お世話になっているし、さんまのテレビはよく観ている。よくよく考えればふたりは、夢に出るべくして出たのだった。
(前日のつづき)
「何かスゲーいやな予感がするんですけど」
私は口を挟む。「後手、原始棒銀で来ますよね。私それ、いちばん見たくない戦型なんですけど」
「アッ…!! ごめんなさい。おもしろそうな棋譜がたまたまこれで…。我慢して聞いてください」
中井広恵女流六段が弁解する。
▲7八金△8三銀▲7九角△8四銀。
石高澄恵女流二段は、やはり一直線棒銀だった。
うう~、よりによって棒銀、しかも原始棒銀じゃ、ズバリじゃねえか。自分の血圧が上がってくるのが分かる。中井女流六段、いつも私の愚痴を聞いてくれて天使のようだが、ときどき小悪魔のような言動をすることがある。いまの笑顔はどっちなのだ。
ところで原始棒銀は、かつて中倉宏美女流二段が、LPSA公認棋戦で中井女流六段に挑んだ戦法でもある。宏美女流二段、こじんまりした穴熊よりも、こうした奔放な将棋のほうが、大地を駆けるハーレーダビッドソンのようで、はるかに魅力的である。
…しかし私が沖縄旅行から帰ってきて、もう2ヶ月。いい加減私も、穴熊と棒銀を克服しなければならない。
▲5六歩△6四歩▲6八角△6五歩。
△6五歩で、最初の合議。「受け側」の主なメンバーはTod氏、Kaz氏と私だが、Kaz氏は堂々と「▲同歩」と言った。
あとで分かったのだが、この手順は棋書に載っているという。勤勉はKun氏、というイメージがあるが、Kaz氏の勉強量も相当なものだ。ちなみに私は、棋書をほとんど買ったことがない。
中井女流六段の指し手も「▲6五同歩」だった。このあとも合議制で指し手は進み、これにて一局、というところで合議制将棋は終了。中井女流六段が指し手を戻して、本局の実戦解説に入った。
双方ギリギリの指し手が続き、息が詰まるような名勝負。
終盤、「将棋世界」の検定問題、四・五段コースに出るような局面が現れた。次の一手が地味ながら味わい深い手で、会員の正解者はゼロだった。
プロが心血を注ぎ、精根こめて指した手である。私たちレベルの棋力で簡単に分かるものではない。中井女流六段に正解を教えられたが、さすがに「五段コース」だけあって、なるほどという好手だった。
中井女流六段の講義が終わり、盛大な拍手が起こった。その光景、駒込金曜サロンを思い出した。
蒸し返すようだが、原始棒銀、単純ながらなかなか奥が深い。さすがに馬つき四枚穴熊は攻略できぬが、いや攻略できる人物がひとりだけいるが、いやそれはどうでもいいのだが、とにかく原始棒銀、一発勝負では有力な戦法だと思った。
「大沢さん、Sさんの奥さんが、ファンクラブイベントで『大沢さんによろしく』って言ってたよ」
と、W氏。
「うう…。奥さん、この前のこと、ネに持ってんのかなあ。オレ宏美先生も挑発しちゃったし、かなりの女性を敵に回してるよなあ」
「そうだネ」
W氏が苦笑した。
閉席の9時まで40分ほど時間があるので、各自で早指し戦を指す。私はKaz氏と一局。「5分・30秒」である。
私の後手で、▲7六歩△3四歩▲2六歩。ここで△3四歩は横歩取り系の将棋。しかしどの変化もKaz氏の掌中にありそうだ。やはり相居飛車はマズイと△4四歩。▲2五歩△3三角と決めたので、私は向かい飛車に構えた。
しかし中盤、▲2四歩に△2二歩が「将棋にない手」だった。2三には金と飛車が利いているので、すぐに謝る必要はない。こんな手を指すくらいなら、振り飛車を指さないほうがいい。
私は△8四桂から銀桂交換の駒得を果たすが、先手の玉頭が手厚く、このくらいの得では合わなかった。
本譜も玉頭から攻め込まれて、中押し負け。私は左辺の遊び駒(飛車、金、銀)が祟った。残念な結果となったが、これが私の実力である。
9時になり、濃密なLPSA芝浦サロンは終了。5時からの参加だったがとても満足で、これで3,500円なら、毎週でも通いたいと思った。
…と、持ちあげておきながら、次回の「中井広恵研究室」に私が参加するかどうかは未定である。やっぱり、芝浦通いはキツイもんね。でも、この会が来年も継続してくれることを、切に願う。
「オイオイ、中井先生が出席するイベントでは、大沢さんが休む権利はないからね」
という声があるのは、無視して――。
(11月1日につづく)
その近くの食堂に明石家さんまが出没して、客の笑いを取っていた。
なぜこのふたりが出てきたのか。Kun氏には日頃お世話になっているし、さんまのテレビはよく観ている。よくよく考えればふたりは、夢に出るべくして出たのだった。
(前日のつづき)
「何かスゲーいやな予感がするんですけど」
私は口を挟む。「後手、原始棒銀で来ますよね。私それ、いちばん見たくない戦型なんですけど」
「アッ…!! ごめんなさい。おもしろそうな棋譜がたまたまこれで…。我慢して聞いてください」
中井広恵女流六段が弁解する。
▲7八金△8三銀▲7九角△8四銀。
石高澄恵女流二段は、やはり一直線棒銀だった。
うう~、よりによって棒銀、しかも原始棒銀じゃ、ズバリじゃねえか。自分の血圧が上がってくるのが分かる。中井女流六段、いつも私の愚痴を聞いてくれて天使のようだが、ときどき小悪魔のような言動をすることがある。いまの笑顔はどっちなのだ。
ところで原始棒銀は、かつて中倉宏美女流二段が、LPSA公認棋戦で中井女流六段に挑んだ戦法でもある。宏美女流二段、こじんまりした穴熊よりも、こうした奔放な将棋のほうが、大地を駆けるハーレーダビッドソンのようで、はるかに魅力的である。
…しかし私が沖縄旅行から帰ってきて、もう2ヶ月。いい加減私も、穴熊と棒銀を克服しなければならない。
▲5六歩△6四歩▲6八角△6五歩。
△6五歩で、最初の合議。「受け側」の主なメンバーはTod氏、Kaz氏と私だが、Kaz氏は堂々と「▲同歩」と言った。
あとで分かったのだが、この手順は棋書に載っているという。勤勉はKun氏、というイメージがあるが、Kaz氏の勉強量も相当なものだ。ちなみに私は、棋書をほとんど買ったことがない。
中井女流六段の指し手も「▲6五同歩」だった。このあとも合議制で指し手は進み、これにて一局、というところで合議制将棋は終了。中井女流六段が指し手を戻して、本局の実戦解説に入った。
双方ギリギリの指し手が続き、息が詰まるような名勝負。
終盤、「将棋世界」の検定問題、四・五段コースに出るような局面が現れた。次の一手が地味ながら味わい深い手で、会員の正解者はゼロだった。
プロが心血を注ぎ、精根こめて指した手である。私たちレベルの棋力で簡単に分かるものではない。中井女流六段に正解を教えられたが、さすがに「五段コース」だけあって、なるほどという好手だった。
中井女流六段の講義が終わり、盛大な拍手が起こった。その光景、駒込金曜サロンを思い出した。
蒸し返すようだが、原始棒銀、単純ながらなかなか奥が深い。さすがに馬つき四枚穴熊は攻略できぬが、いや攻略できる人物がひとりだけいるが、いやそれはどうでもいいのだが、とにかく原始棒銀、一発勝負では有力な戦法だと思った。
「大沢さん、Sさんの奥さんが、ファンクラブイベントで『大沢さんによろしく』って言ってたよ」
と、W氏。
「うう…。奥さん、この前のこと、ネに持ってんのかなあ。オレ宏美先生も挑発しちゃったし、かなりの女性を敵に回してるよなあ」
「そうだネ」
W氏が苦笑した。
閉席の9時まで40分ほど時間があるので、各自で早指し戦を指す。私はKaz氏と一局。「5分・30秒」である。
私の後手で、▲7六歩△3四歩▲2六歩。ここで△3四歩は横歩取り系の将棋。しかしどの変化もKaz氏の掌中にありそうだ。やはり相居飛車はマズイと△4四歩。▲2五歩△3三角と決めたので、私は向かい飛車に構えた。
しかし中盤、▲2四歩に△2二歩が「将棋にない手」だった。2三には金と飛車が利いているので、すぐに謝る必要はない。こんな手を指すくらいなら、振り飛車を指さないほうがいい。
私は△8四桂から銀桂交換の駒得を果たすが、先手の玉頭が手厚く、このくらいの得では合わなかった。
本譜も玉頭から攻め込まれて、中押し負け。私は左辺の遊び駒(飛車、金、銀)が祟った。残念な結果となったが、これが私の実力である。
9時になり、濃密なLPSA芝浦サロンは終了。5時からの参加だったがとても満足で、これで3,500円なら、毎週でも通いたいと思った。
…と、持ちあげておきながら、次回の「中井広恵研究室」に私が参加するかどうかは未定である。やっぱり、芝浦通いはキツイもんね。でも、この会が来年も継続してくれることを、切に願う。
「オイオイ、中井先生が出席するイベントでは、大沢さんが休む権利はないからね」
という声があるのは、無視して――。
(11月1日につづく)