カロリーナ・ステチェンスカさん(ポーランド)は6月の研修会で規定の成績に達し、女流棋士3級の資格を得た。10月1日付で女流3級として活動する。
カロリーナさんは言語の関係で大変なハンデを背負っていたが、見事に克服して、ついにプロ(の見習い)になった。その努力は並大抵ではなかったと思う。心から祝福したい。
さて、当ブログに私自身は存在価値を見出さないが、将棋に関する日々をリアルタイム形式で書いているので、過去の出来事を検索する時には便利だ。
たまたま、カロリーナさんの対プロ戦勝利の模様も記していた。2012年5月30日エントリー「第4回 中井広恵の将棋合宿(第5手)『カロリーナさんの熱局』」である。一部を転載してみよう。
「
対局の前に、女流王座戦一次予選が気になる。午後1時からは、高群佐知子女流三段と、カロリーナ・ステチェンスカ(ポーランド)戦が行われている。幸い対局中継もあるので、その将棋を大盤に並べる。
戦形はカロリーナさんの石田流三間飛車。序盤はソツなく指し、8筋からの飛車先突破を見せて、カロリーナさんが有利に見える。これはひょっとしたらひょっとするのではないか。
(中略)
高群-カロリーナ戦に戻る。カロリーナさんの▲8四歩~▲8三歩成を先受けして、高群女流三段△7二金から△8三金!! 「受けの高群」らしい力強い手だが、これで後手がいいとは思えない。
しかしカロリーナさんの攻め急ぎがあったか、局面は紛糾、むずかしい戦いになった。こちらは中井女流六段、植山悦行七段、大野七段のリアルタイム解説つき。あらゆる変化が並べられる。
107手目▲3五銀捨てに△4五玉と桂を外したのが失着。△3五同玉なら後手が残していた。しかし1分の秒読みではやむを得ない。
カロリーナさん、▲1八玉と歩を取って詰めろを外す。冷静だ。次に▲3二竜△同銀▲4六金があるから高群女流三段は△3五玉だが、カロリーナさんは▲7八角の詰めろ飛車取り! これにてカロリーナさん勝ち、と植山七段のご宣託があり、植山七段は対局に戻った。
残った中井女流六段と大野七段、私たちは、なおも進行を見守る。しかしここからが本当の見所だった。
数手後▲8九角が実現したが、高群女流三段は△5六桂と粘る。これですぐに寄りがないのは驚いた。繰り返すが、さすがに「受けの高群」である。
ここから両者ほぼ最善手が続く。と思われるのは、中井女流六段の検討どおりに局面が進行したからだ。
ちょっと、この将棋があまりにも面白すぎて、リーグ戦を指すどころではない。「急造控室」ではカロリーナさんが寄せきるか否かで、熱気を帯びていた。
高群女流三段、△3九銀の詰めろ! ここで受けに回ってはカロリーナさん、勝てない。
どうするのかと見ていると、▲6一銀の捨て駒が飛び出した。これは「控室」でも出なかった手だ。以下▲7一竜までカロリーナさんの勝ち!
これは大変なことになった。外国籍女性が公式戦で、ついに女流棋士に勝ったのだ。カロリーナさん、終始落ち着いた指し回しで、実に堂々とした戦いぶりだった。今期のベストバウトだったと思う。
」
本文でも記したが、当時はネット中継され、それを合宿中の棋士3人に解説をいただくという幸運に恵まれた。将棋は二転三転の熱局で、こういう将棋を勝ち切ったのは偉い。
私は大いに感心し、この年度の「私が勝手に選ぶ、『2012年度・女流将棋名局ベスト5』」の第3位に選んだのだった。ついでにそれも記してみよう。
2013年4月6日エントリー。
「
第3位
2012年5月19日
第2期女流王座戦・一次予選
高群佐知子女流三段×カロリーナ・ステチェンスカ アマ
女流王座戦には海外招待選手制度があり、今期はポーランド出身のカロリーナ・ステチェンスカさんが招待された。
いまやネットの時代だから地域による棋力差はあまりないが、昨年の張天天さんの将棋などを見ていると、まだまだ女流プロへの壁は厚いな、と思わされた。
ところが本局、フタを開けてみると、カロリーナさんが善戦する。石田流三間飛車から着実に優位を拡げ、気が付いたら勝勢になっていた。
この対局当時、ちょうど私は将棋合宿中だったのだが、111手目カロリーナさんが▲7八角と打つ前後では、「解説」の植山悦行七段や大野八一雄七段が、「カロリーナさん勝ち」で検討を打ち切っていた。
しかしそこから、高群女流三段が「受けの高群」の本領を発揮する。絶体絶命の玉を逃れ、敵玉に詰めよまで掛けた。ふつうだったら逆転しているところである。
だがカロリーナさんは頑張った。そこから冷静に指し回し、最後は華麗な捨て駒で高群玉を詰ましたのだ。総手数159手。カロリーナさんも強かったが、敗勢の局面から50手近くも粘った高群女流三段も、さすがの強さだった。
先日はコンピューターが男性現役棋士を破ったが、外国人女性が女流棋士を破った本局もまた、棋史に残る一戦になったのである。
」
お隣の囲碁界は各国のプロがいるが、将棋界は日本人だけだった。これは将棋がおもに日本でしか指されていなかったからだが、日本将棋連盟の普及とインターネットの発達で、強い外国人も増えた。その結実がカロリーナさんで、カロリーナさんは現れるべくして現れた、女流棋界の新星といえるのだ。
ただ、正式に女流棋士として認められるのは女流2級からなので、実はカロリーナさんは、まだスタート地点に立っていない。
もっとも、カロリーナさんはもう女流棋士に何人か勝っているし、昇級に問題はあるまい。
今後の活躍を期待したい。
カロリーナさんは言語の関係で大変なハンデを背負っていたが、見事に克服して、ついにプロ(の見習い)になった。その努力は並大抵ではなかったと思う。心から祝福したい。
さて、当ブログに私自身は存在価値を見出さないが、将棋に関する日々をリアルタイム形式で書いているので、過去の出来事を検索する時には便利だ。
たまたま、カロリーナさんの対プロ戦勝利の模様も記していた。2012年5月30日エントリー「第4回 中井広恵の将棋合宿(第5手)『カロリーナさんの熱局』」である。一部を転載してみよう。
「
対局の前に、女流王座戦一次予選が気になる。午後1時からは、高群佐知子女流三段と、カロリーナ・ステチェンスカ(ポーランド)戦が行われている。幸い対局中継もあるので、その将棋を大盤に並べる。
戦形はカロリーナさんの石田流三間飛車。序盤はソツなく指し、8筋からの飛車先突破を見せて、カロリーナさんが有利に見える。これはひょっとしたらひょっとするのではないか。
(中略)
高群-カロリーナ戦に戻る。カロリーナさんの▲8四歩~▲8三歩成を先受けして、高群女流三段△7二金から△8三金!! 「受けの高群」らしい力強い手だが、これで後手がいいとは思えない。
しかしカロリーナさんの攻め急ぎがあったか、局面は紛糾、むずかしい戦いになった。こちらは中井女流六段、植山悦行七段、大野七段のリアルタイム解説つき。あらゆる変化が並べられる。
107手目▲3五銀捨てに△4五玉と桂を外したのが失着。△3五同玉なら後手が残していた。しかし1分の秒読みではやむを得ない。
カロリーナさん、▲1八玉と歩を取って詰めろを外す。冷静だ。次に▲3二竜△同銀▲4六金があるから高群女流三段は△3五玉だが、カロリーナさんは▲7八角の詰めろ飛車取り! これにてカロリーナさん勝ち、と植山七段のご宣託があり、植山七段は対局に戻った。
残った中井女流六段と大野七段、私たちは、なおも進行を見守る。しかしここからが本当の見所だった。
数手後▲8九角が実現したが、高群女流三段は△5六桂と粘る。これですぐに寄りがないのは驚いた。繰り返すが、さすがに「受けの高群」である。
ここから両者ほぼ最善手が続く。と思われるのは、中井女流六段の検討どおりに局面が進行したからだ。
ちょっと、この将棋があまりにも面白すぎて、リーグ戦を指すどころではない。「急造控室」ではカロリーナさんが寄せきるか否かで、熱気を帯びていた。
高群女流三段、△3九銀の詰めろ! ここで受けに回ってはカロリーナさん、勝てない。
どうするのかと見ていると、▲6一銀の捨て駒が飛び出した。これは「控室」でも出なかった手だ。以下▲7一竜までカロリーナさんの勝ち!
これは大変なことになった。外国籍女性が公式戦で、ついに女流棋士に勝ったのだ。カロリーナさん、終始落ち着いた指し回しで、実に堂々とした戦いぶりだった。今期のベストバウトだったと思う。
」
本文でも記したが、当時はネット中継され、それを合宿中の棋士3人に解説をいただくという幸運に恵まれた。将棋は二転三転の熱局で、こういう将棋を勝ち切ったのは偉い。
私は大いに感心し、この年度の「私が勝手に選ぶ、『2012年度・女流将棋名局ベスト5』」の第3位に選んだのだった。ついでにそれも記してみよう。
2013年4月6日エントリー。
「
第3位
2012年5月19日
第2期女流王座戦・一次予選
高群佐知子女流三段×カロリーナ・ステチェンスカ アマ
女流王座戦には海外招待選手制度があり、今期はポーランド出身のカロリーナ・ステチェンスカさんが招待された。
いまやネットの時代だから地域による棋力差はあまりないが、昨年の張天天さんの将棋などを見ていると、まだまだ女流プロへの壁は厚いな、と思わされた。
ところが本局、フタを開けてみると、カロリーナさんが善戦する。石田流三間飛車から着実に優位を拡げ、気が付いたら勝勢になっていた。
この対局当時、ちょうど私は将棋合宿中だったのだが、111手目カロリーナさんが▲7八角と打つ前後では、「解説」の植山悦行七段や大野八一雄七段が、「カロリーナさん勝ち」で検討を打ち切っていた。
しかしそこから、高群女流三段が「受けの高群」の本領を発揮する。絶体絶命の玉を逃れ、敵玉に詰めよまで掛けた。ふつうだったら逆転しているところである。
だがカロリーナさんは頑張った。そこから冷静に指し回し、最後は華麗な捨て駒で高群玉を詰ましたのだ。総手数159手。カロリーナさんも強かったが、敗勢の局面から50手近くも粘った高群女流三段も、さすがの強さだった。
先日はコンピューターが男性現役棋士を破ったが、外国人女性が女流棋士を破った本局もまた、棋史に残る一戦になったのである。
」
お隣の囲碁界は各国のプロがいるが、将棋界は日本人だけだった。これは将棋がおもに日本でしか指されていなかったからだが、日本将棋連盟の普及とインターネットの発達で、強い外国人も増えた。その結実がカロリーナさんで、カロリーナさんは現れるべくして現れた、女流棋界の新星といえるのだ。
ただ、正式に女流棋士として認められるのは女流2級からなので、実はカロリーナさんは、まだスタート地点に立っていない。
もっとも、カロリーナさんはもう女流棋士に何人か勝っているし、昇級に問題はあるまい。
今後の活躍を期待したい。