第80期名人戦が6日から始まった。名人2期の渡辺明名人に挑むは、前期に続いての登場となる、斎藤慎太郎八段である。
斎藤八段は前期1勝4敗で敗れたが、今期は同じ轍を踏むわけにいかず、「この10年の集大成を見せる」と悲壮な覚悟で臨んでいる。
また渡辺名人も、他者に先んじて二十世名人を獲得したいが、それには今期の名人戦を落とすわけにはいかないのだ。
藤井聡太竜王がどんなに勝ちまくっても、名人戦に登場するには最短でも5年かかる。遥かなる頂きにそびえる名人位は、そのくらいの年月を必要とする、崇高なタイトルなのだ。
そんな頂上決戦で、今年も素晴らしい戦いが展開されることを祈った。
第1局は東京都文京区「ホテル椿山荘東京」。タイトル戦は地方で開催してほしいと思うが、それは旅好きの個人的な感想であって、対局者は移動の負担がないからありがたいのかもしれない。
振駒で渡辺名人の先手となり、第1局は相矢倉となった。しかし昨今は双方がガッチリ金矢倉に収まることはなく、▲7七銀▲7八金(△3三銀△3二金)の形ができていれば、矢倉と分類するらしい。
果たして本局もそうで、▲6九玉・△5一玉の形から角交換になり、後手陣が△6二金~△8一飛と整えてみれば、むしろ「角換わり」に分類したいほどであった。
と、斎藤八段は△6四角と据えた。△6五歩から△6四角の形はAIでも高評価らしいが、それはむかしから言われていたことで、古来の評価が正しかったことが図らずも証明されたわけだ。
渡辺名人は角の間接的な利きから逃れつつ、▲5八飛。それでも斎藤八段は△4五歩といった。
これに渡辺名人は▲同銀! となれば、斎藤八段は△1九角成(第1図)と香得する。
こうなるのがイヤだから、私だったら▲4五同銀で▲3七銀と退却するのだが、たぶん将棋は、そんな軟弱な手では勝てないんだと思う。
むろん名人も気合だけで指したわけではなく、▲3四歩(第2図)が気持ちいい一着。この一発の爽快感だけで、香損の釣り合いは取れている。
しかも斎藤八段はここで、△2二銀と屈服したのだ。だがこれでは、△2二銀は一生日の目を見ない。こんな手を指すくらいなら△3四同銀と自爆してもらいたいが、名人位が懸かっている番勝負、そんな短慮はできないのだろう。
とはいえ△2二銀なあ……。芹沢博文九段だったら、どう評しただろう。
本譜に戻り、続く▲2六角が名手だった。通常、金は角筋から逸れているが、△6二金型は例外だ。今回はたまたま角を打ったが、とにかくこの金と角を刺し違えられれば、先手は十分となる。
斎藤八段は△5二玉と金に寄せたが、これでは辛い。
渡辺名人は▲3七桂と跳ね、好調。まさに全軍躍動で、繰り返すが、香損など物の数ではない。
なお細かいところだが、名人の玉が、しっかり8八に収まっているのも見逃せない。将棋はなんだかんだいっても、玉が固いのは相当なアドバンテージだと思う。AIは玉の固さを重視しないようだが、この大局観だけは、AIが間違っていると思う。
さて後手としては、△1九馬の働きが弱くなっているのが分かる。飛車落ちの手合いで下手が▲8二角から▲9一角成と香得する変化があるが、実はこれが上手の罠で、この形は下手の馬がほとんど働かない。本局の後手の馬も、それに近いものになってしまった。
そこから数手進んで▲8二銀(第3図)が、渡辺名人が自ブログでも自賛していた決め手。
飛車が横に逃げれば▲7三銀成△同馬▲6五桂で先手勝ち。よって斎藤八段は△同飛と取り、▲7一角に△4三玉とよろけたが、名人は▲8二角成と飛車を取って、勝勢となった。
以下渡辺名人が勝ち、幸先いいスタートを切った。
A級順位戦を8勝1敗で快走した斎藤八段を、たやすくほふった渡辺名人。たぶん渡辺名人は、藤井竜王以外の相手には、相当な自信を持っているんだと思う。藤井竜王のマシーンのような強さから見れば、他の棋士など恐るるに足らず、というところだと思う。
一方の斎藤八段は、初戦勝利は絶対条件だった。それを完敗したのはいかにもマズい。早くも後がなくなった感じで、実際第2局を負けて2連敗だと、残り5局を4勝1敗で乗り切らねばならないから、相当厳しい。とにかく気を取り直して、第2局は必勝で臨むしかない。
第2局は19日・20日に、石川県で行われる。
斎藤八段は前期1勝4敗で敗れたが、今期は同じ轍を踏むわけにいかず、「この10年の集大成を見せる」と悲壮な覚悟で臨んでいる。
また渡辺名人も、他者に先んじて二十世名人を獲得したいが、それには今期の名人戦を落とすわけにはいかないのだ。
藤井聡太竜王がどんなに勝ちまくっても、名人戦に登場するには最短でも5年かかる。遥かなる頂きにそびえる名人位は、そのくらいの年月を必要とする、崇高なタイトルなのだ。
そんな頂上決戦で、今年も素晴らしい戦いが展開されることを祈った。
第1局は東京都文京区「ホテル椿山荘東京」。タイトル戦は地方で開催してほしいと思うが、それは旅好きの個人的な感想であって、対局者は移動の負担がないからありがたいのかもしれない。
振駒で渡辺名人の先手となり、第1局は相矢倉となった。しかし昨今は双方がガッチリ金矢倉に収まることはなく、▲7七銀▲7八金(△3三銀△3二金)の形ができていれば、矢倉と分類するらしい。
果たして本局もそうで、▲6九玉・△5一玉の形から角交換になり、後手陣が△6二金~△8一飛と整えてみれば、むしろ「角換わり」に分類したいほどであった。
と、斎藤八段は△6四角と据えた。△6五歩から△6四角の形はAIでも高評価らしいが、それはむかしから言われていたことで、古来の評価が正しかったことが図らずも証明されたわけだ。
渡辺名人は角の間接的な利きから逃れつつ、▲5八飛。それでも斎藤八段は△4五歩といった。
これに渡辺名人は▲同銀! となれば、斎藤八段は△1九角成(第1図)と香得する。
こうなるのがイヤだから、私だったら▲4五同銀で▲3七銀と退却するのだが、たぶん将棋は、そんな軟弱な手では勝てないんだと思う。
むろん名人も気合だけで指したわけではなく、▲3四歩(第2図)が気持ちいい一着。この一発の爽快感だけで、香損の釣り合いは取れている。
しかも斎藤八段はここで、△2二銀と屈服したのだ。だがこれでは、△2二銀は一生日の目を見ない。こんな手を指すくらいなら△3四同銀と自爆してもらいたいが、名人位が懸かっている番勝負、そんな短慮はできないのだろう。
とはいえ△2二銀なあ……。芹沢博文九段だったら、どう評しただろう。
本譜に戻り、続く▲2六角が名手だった。通常、金は角筋から逸れているが、△6二金型は例外だ。今回はたまたま角を打ったが、とにかくこの金と角を刺し違えられれば、先手は十分となる。
斎藤八段は△5二玉と金に寄せたが、これでは辛い。
渡辺名人は▲3七桂と跳ね、好調。まさに全軍躍動で、繰り返すが、香損など物の数ではない。
なお細かいところだが、名人の玉が、しっかり8八に収まっているのも見逃せない。将棋はなんだかんだいっても、玉が固いのは相当なアドバンテージだと思う。AIは玉の固さを重視しないようだが、この大局観だけは、AIが間違っていると思う。
さて後手としては、△1九馬の働きが弱くなっているのが分かる。飛車落ちの手合いで下手が▲8二角から▲9一角成と香得する変化があるが、実はこれが上手の罠で、この形は下手の馬がほとんど働かない。本局の後手の馬も、それに近いものになってしまった。
そこから数手進んで▲8二銀(第3図)が、渡辺名人が自ブログでも自賛していた決め手。
飛車が横に逃げれば▲7三銀成△同馬▲6五桂で先手勝ち。よって斎藤八段は△同飛と取り、▲7一角に△4三玉とよろけたが、名人は▲8二角成と飛車を取って、勝勢となった。
以下渡辺名人が勝ち、幸先いいスタートを切った。
A級順位戦を8勝1敗で快走した斎藤八段を、たやすくほふった渡辺名人。たぶん渡辺名人は、藤井竜王以外の相手には、相当な自信を持っているんだと思う。藤井竜王のマシーンのような強さから見れば、他の棋士など恐るるに足らず、というところだと思う。
一方の斎藤八段は、初戦勝利は絶対条件だった。それを完敗したのはいかにもマズい。早くも後がなくなった感じで、実際第2局を負けて2連敗だと、残り5局を4勝1敗で乗り切らねばならないから、相当厳しい。とにかく気を取り直して、第2局は必勝で臨むしかない。
第2局は19日・20日に、石川県で行われる。