○井筒和幸監督 映画『パッチギ!』
http://www.pacchigi.com/
先々週の封切り以来、気になっていた『パッチギ!』をようやく見てきた。客席は人影がまばらで拍子抜けした。まあ、午前中の回だったので、あんなものかもしれないけど。ひとりで来ている50代か60代くらいのおじさんが多かった。
「日本と在日朝鮮人の高校生が社会の荒波に巻き込まれながら、大人への一歩を踏み出す姿をとらえた青春群像劇。娯楽性と社会性が融合された、笑いあり感動ありの作品」(goo映画:1月25日付)という批評に嘘はない。おもしろかった。
テーマは重い。例によって涙腺の弱い私はずいぶん泣かされた。しかし、この映画の製作者には、観客をどうしても泣かせようという意図は薄いと思う。むしろ、どうにもならない現実の重さを突き放していて、カラッと乾いた感じがする。だから、泣いてしまったことに対する後味の悪さがあまりない(涙のあとで「騙された」っていう作品、時々あるでしょ)。
「暴力的な描写が多くていやだ」という声がある。そう言われてもやむを得ないかな。私は刃物や銃を使った暴力描写は生理的に受け付けないんだけど、原始的な殴り合いには、わりと耐えられる。いや、実は、こういう暴力的な身体を持った男の子たちというのが嫌いじゃない。
むかしは駄目だった。高校生の頃、「暴力、反抗、逸脱イコール青春」みたいな語りは大嫌いだった。当時の私は、大学受験だけを目指してスノッブで平穏無事な学生生活をおくっていたので。しかし、不思議なことに、親と呼ばれてもいい(実際には親になってないけど)トシになってみると、若者、特に男の子たちの原始的な暴力性が、妙にいとおしく思えることがある。これって、息子を見る母親の目線だな、たぶん。
この映画でも、恋する主人公・松山康介(塩谷瞬)よりも、朝鮮高校の不良三人組のほうが、私は抱きしめたいほど好きだ。特にリ・アンソンを演じた高岡蒼佑くんはカッコよかったなあ。私はあまり映画を見ないので、この映画の主要キャストを占めている若い俳優さんたちは、ほとんど知らなかったが、みんな存在感があってよかった。
実は先週末、京都の鴨川畔を歩きながら、この映画の舞台となったのはどのへんなんだろう?と考えていた。映画の中で(たぶん)一度だけ「東九条」という地名が出てくる。有名な東寺のそばだが、在日韓国・朝鮮人居住区は「鴨川と高瀬川の間」らしいので、近づいたことはないと思う。「東九条」で検索をかけると、なるほど、と思い当たるようなサイトが見つかって興味深い。
朝鮮高校(正確には「京都朝鮮中高級学校」)の位置も、いろいろ調べて、やっと見つけた。北白川の銀閣寺から、さらに山を上ったあたりである。そうかあ、銀閣寺までは何度も行っているのに、知らなかったなあ...
見尽くしたように思っている京都の町にも、実は見えていないものがたくさんあるのだあ、と思った。いや、それは京都の町だけでなくて、日本全体について言えることかも知れない。
http://www.pacchigi.com/
先々週の封切り以来、気になっていた『パッチギ!』をようやく見てきた。客席は人影がまばらで拍子抜けした。まあ、午前中の回だったので、あんなものかもしれないけど。ひとりで来ている50代か60代くらいのおじさんが多かった。
「日本と在日朝鮮人の高校生が社会の荒波に巻き込まれながら、大人への一歩を踏み出す姿をとらえた青春群像劇。娯楽性と社会性が融合された、笑いあり感動ありの作品」(goo映画:1月25日付)という批評に嘘はない。おもしろかった。
テーマは重い。例によって涙腺の弱い私はずいぶん泣かされた。しかし、この映画の製作者には、観客をどうしても泣かせようという意図は薄いと思う。むしろ、どうにもならない現実の重さを突き放していて、カラッと乾いた感じがする。だから、泣いてしまったことに対する後味の悪さがあまりない(涙のあとで「騙された」っていう作品、時々あるでしょ)。
「暴力的な描写が多くていやだ」という声がある。そう言われてもやむを得ないかな。私は刃物や銃を使った暴力描写は生理的に受け付けないんだけど、原始的な殴り合いには、わりと耐えられる。いや、実は、こういう暴力的な身体を持った男の子たちというのが嫌いじゃない。
むかしは駄目だった。高校生の頃、「暴力、反抗、逸脱イコール青春」みたいな語りは大嫌いだった。当時の私は、大学受験だけを目指してスノッブで平穏無事な学生生活をおくっていたので。しかし、不思議なことに、親と呼ばれてもいい(実際には親になってないけど)トシになってみると、若者、特に男の子たちの原始的な暴力性が、妙にいとおしく思えることがある。これって、息子を見る母親の目線だな、たぶん。
この映画でも、恋する主人公・松山康介(塩谷瞬)よりも、朝鮮高校の不良三人組のほうが、私は抱きしめたいほど好きだ。特にリ・アンソンを演じた高岡蒼佑くんはカッコよかったなあ。私はあまり映画を見ないので、この映画の主要キャストを占めている若い俳優さんたちは、ほとんど知らなかったが、みんな存在感があってよかった。
実は先週末、京都の鴨川畔を歩きながら、この映画の舞台となったのはどのへんなんだろう?と考えていた。映画の中で(たぶん)一度だけ「東九条」という地名が出てくる。有名な東寺のそばだが、在日韓国・朝鮮人居住区は「鴨川と高瀬川の間」らしいので、近づいたことはないと思う。「東九条」で検索をかけると、なるほど、と思い当たるようなサイトが見つかって興味深い。
朝鮮高校(正確には「京都朝鮮中高級学校」)の位置も、いろいろ調べて、やっと見つけた。北白川の銀閣寺から、さらに山を上ったあたりである。そうかあ、銀閣寺までは何度も行っているのに、知らなかったなあ...
見尽くしたように思っている京都の町にも、実は見えていないものがたくさんあるのだあ、と思った。いや、それは京都の町だけでなくて、日本全体について言えることかも知れない。