見もの・読みもの日記

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山水の理想郷/大和文華館

2005-07-03 10:21:13 | 行ったもの(美術館・見仏)
○大和文華館 『山水-東洋の理想郷-』

 館蔵作品の中から、山水を通して自然観や美意識を表現した作品を展示したもの。絵画の展示なんだろうなという思い込みで行ったら、最初にあったのが、染付け陶器で、なるほどと思った。その中に富士山のかたちをした平鉢があった。内側に洒脱な筆致で「山水」が描かれている。当然、日本で作られたものだと思ったら、明時代、景徳鎮で、日本への輸出用に焼かれたという。

 『台湾征討図巻』も意外な作品だった。清の乾隆帝が台湾を征討したのち、その戦いの様子を描いた銅版画である。乾隆帝に仕えたイタリア人画家カスティオーネ(朗世寧)がパリに発注して作らせたものだという。大勢の兵士が一団となって城郭を攻める様子を細密に描いている(明治の錦絵にもあったなあ、こんなの)。しかし、遠景は、伝統的な「山水」の表現法にのっとっている、ということで、この「山水-東洋の理想郷-」に引っ張り出されているのは、面白いけど、ちょっと皮肉が効きすぎかも。

 ふだんあまり見ることのない、朝鮮の山水画が、まとまって出ていたのも興味深かった。朝鮮では、中国の瀟湘八景図が好まれ、これに似せて「ソウル八景が作られた」と解説にあったけど、ほんとかな~。「ソウル八景」って、聞いたことないぞ。まあ、日本の「近江八景」みたいなものでしょうけど。

 日本の作品では『京畿遊歴画冊』に惹かれた。江戸後期、無名の作者が、畿内を遊歴しながら書き留めたスケッチブックである。地名などが付記してあって、「山水」に対して、地理的な好奇心と、美的な関心の二つの心性で向かい合っていることが分かる。ちょうど開いてあったページが吉野川の河畔を長々と描いたもので、前日に通り過ぎた地名が載っていたりするのが嬉しかった。

 今回、明清と江戸以降の作品が中心のため、展示室は全面的に外光を取り入れて、明るいしつらえになっていた。裏のテラスからは、広大な池(蛙股池というらしい)の眺めを楽しむことができる。展示室の中央には、ガラス張りの坪庭があって、ときどき微風に誘われて竹の葉がはらはらと散る。「山水」に浮かぶ美術館で「山水」を見るって、確かに一種の「理想郷」かも知れない。
コメント
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