○浅田次郎著・監修『浅田次郎とめぐる中国の旅:「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」の世界』 講談社 2008.7
神田の大書店に行ったら、いつの間にか、こんな本が出ていた。1996年刊行の『蒼穹の昴』は、清朝末期の中国を舞台に、実在・架空の人物が入り乱れる長編歴史小説。著者の最高傑作との評判が高く(→Wikipedia)、続編にあたる『珍妃の井戸』『中原の虹』も人気が高い。本書では、作者の浅田次郎自ら、故宮(紫禁城)の観光コースに沿って、小説世界とかかわりの深い見どころを紹介する。浅田氏と中国人比較文学者・張競氏の対談、編集部による浅田氏インタビューも収録。カラー写真も満載で、『蒼穹の昴』ファンには、うれしい1冊である。北京オリンピックの余波だろうが、入江曜子氏『紫禁城:清朝の歴史を歩く』(岩波新書)とともに、中国近代史のレファレンスツールとして座右に備えたい。
極道お笑いシリーズが人気を博していた時期に、敢えて『蒼穹の昴』を書き始めたきっかけを、著者はこう語る。「私の文学的出自はけっして『極道』ではなく、『漢籍』である」。ええ~カッコいいなあ。受験勉強の真っ最中に『儒林外史』を愛読し、「清王朝の虜となってしまった」という。そして、著者が清王朝の魅力を、言葉を極めて語った一節を、以下にそのまま引いておきたい。
遥か満州の野に起こって漢土を制したこの王朝には、たとえば混血児のおもざしを見るようなふしぎな美しさがある。華麗にして質朴。複雑だが実は単純。儀礼的と見えて合理的。柔にして剛。そうしたあらゆる相反性が、この王朝のたたずまいには奇跡のように調和している。――私は何度もこの一節を読み返し、美酒を味わうように味わった。分かる、分かる。分かりすぎて、涙がこぼれそうだった。清朝史の魅力をこれほど美しく的確な言葉で語った文章を、私はほかに知らない。
ほかにも、李鴻章について、西太后について、あるいは順治帝、乾隆帝について、多くの人物評が語られているが、どれも共感できるものばかりでうれしかった。対談相手の張競氏が張作霖を語って「あの時代の軍人というのは面白いですよ。現在の私たちからは想像もできないくらい教養がない一方で、しっかりと知恵があるんです」とう発言も興味深かった。
私もまた、近年は「清王朝の虜」になっているのだが、最初のきっかけは、著者の小説ではなくて、中国で制作された時代劇ドラマだった。本書の対談中で、張競氏が「歴史を扱う娯楽でここ数年当たったものといえば、テレビドラマがありました」と触れている。しかし浅田氏は「そのドラマ(康熙微服私訪記)をNHKで購入して日本で放映してくれないかな」という反応で、詳しいことは知らないらしい。私は、浅田さんに、ドラマ『走向共和』を見てほしいんだけどなあ。いや、CCTV(中国中央電視台)2003年制作の『走向共和』には、『蒼穹の昴』の影響があるんじゃないか、と私はずっと疑っているのだが…。
神田の大書店に行ったら、いつの間にか、こんな本が出ていた。1996年刊行の『蒼穹の昴』は、清朝末期の中国を舞台に、実在・架空の人物が入り乱れる長編歴史小説。著者の最高傑作との評判が高く(→Wikipedia)、続編にあたる『珍妃の井戸』『中原の虹』も人気が高い。本書では、作者の浅田次郎自ら、故宮(紫禁城)の観光コースに沿って、小説世界とかかわりの深い見どころを紹介する。浅田氏と中国人比較文学者・張競氏の対談、編集部による浅田氏インタビューも収録。カラー写真も満載で、『蒼穹の昴』ファンには、うれしい1冊である。北京オリンピックの余波だろうが、入江曜子氏『紫禁城:清朝の歴史を歩く』(岩波新書)とともに、中国近代史のレファレンスツールとして座右に備えたい。
極道お笑いシリーズが人気を博していた時期に、敢えて『蒼穹の昴』を書き始めたきっかけを、著者はこう語る。「私の文学的出自はけっして『極道』ではなく、『漢籍』である」。ええ~カッコいいなあ。受験勉強の真っ最中に『儒林外史』を愛読し、「清王朝の虜となってしまった」という。そして、著者が清王朝の魅力を、言葉を極めて語った一節を、以下にそのまま引いておきたい。
遥か満州の野に起こって漢土を制したこの王朝には、たとえば混血児のおもざしを見るようなふしぎな美しさがある。華麗にして質朴。複雑だが実は単純。儀礼的と見えて合理的。柔にして剛。そうしたあらゆる相反性が、この王朝のたたずまいには奇跡のように調和している。――私は何度もこの一節を読み返し、美酒を味わうように味わった。分かる、分かる。分かりすぎて、涙がこぼれそうだった。清朝史の魅力をこれほど美しく的確な言葉で語った文章を、私はほかに知らない。
ほかにも、李鴻章について、西太后について、あるいは順治帝、乾隆帝について、多くの人物評が語られているが、どれも共感できるものばかりでうれしかった。対談相手の張競氏が張作霖を語って「あの時代の軍人というのは面白いですよ。現在の私たちからは想像もできないくらい教養がない一方で、しっかりと知恵があるんです」とう発言も興味深かった。
私もまた、近年は「清王朝の虜」になっているのだが、最初のきっかけは、著者の小説ではなくて、中国で制作された時代劇ドラマだった。本書の対談中で、張競氏が「歴史を扱う娯楽でここ数年当たったものといえば、テレビドラマがありました」と触れている。しかし浅田氏は「そのドラマ(康熙微服私訪記)をNHKで購入して日本で放映してくれないかな」という反応で、詳しいことは知らないらしい。私は、浅田さんに、ドラマ『走向共和』を見てほしいんだけどなあ。いや、CCTV(中国中央電視台)2003年制作の『走向共和』には、『蒼穹の昴』の影響があるんじゃないか、と私はずっと疑っているのだが…。