見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

東博・東洋館『市河米庵コレクション』ほか

2008-09-07 23:20:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館・東洋館8室 特集陳列『市河米庵コレクション』ほか

http://www.tnm.go.jp/

 この日は、ちょっと気分を変えて東洋館から。第8室(中国絵画・書跡)では、そろそろ『中国書画精華』が始まる頃かな、と思ったら、1つ前の特集陳列『市河米庵コレクション』の最終週だった。市河米庵は、漢詩人・市河寛斎の長男で、幕末の書家である。

 思わず目が留まったのは『楷書妙沙経冊』という紺紙金泥の折本。したたるような金泥がまぶしい、堂々とした筆跡の主は明の神宗(万暦帝)である。「妙沙経」というのは初めて聞く経典だが、中味があんまり面白いので書き写してきた。冒頭は「佛佛佛/三十六万億億佛/二万九千無数佛/五百蔵恒河沙定光佛/八百聡明智恵佛」。こんな具合で、仏礼讃が続く。まさかWeb上に全文はないだろうと思ったが、中国語Googleで検索したら『大自在佛教用品網』というサイトにちゃんと載っていた。面白い。

 書画ともに明清ものが主だが、ときどき古いものが混じっている。元代の禅僧・中峰明本の名前があったので、おやと思ったが、『中峰明本書跋』は別人(楚石梵)の筆だった。冒頭に「瀋王高句麗賢君也」とあったのが気になって、調べてみたら、高麗国王・忠宣王のことらしい。フビライの娘を母とし、元の宮廷で育った。そうそう、この時期の高麗王朝は、元との姻戚関係によって保たれていたのだと、この間『歴史物語 朝鮮半島』で読んだばかり。その隣にあった『草書観世音賛軸』は中峰明本の筆跡。ものすごい癖字で微笑ましい。ちなみに、どうして私がこんな禅僧の名前を知っているかと言えば、むろん墨跡からである。→鎌倉国宝館『鎌倉の至宝』

 帰りがけに、第5室(中国の陶磁)を通った。通り過ぎるつもりだったのに、入口で足が止まってしまった。清・乾隆年間に景徳鎮窯で焼かれた『天藍釉罍形瓶(らいがたへい)』。「天藍」とは、かなり青みの強いものを言うと思っていたのだが、これはとろりと白濁した色味に温かみがある。胡麻豆腐か胡麻アイスクリームみたいな風合いなのである。その隣りの『豆彩束蓮文鉢』も愛らしい名品。

 『五彩人物文大皿』も楽しい。描かれているのは、馬上でスカートをなびかせ、鞭を掲げる8人の女性たち。小さな髷も勇ましい。高楼で彼女たちを見つめるのも女性である。物語か何かの一場面だろうか?

 東洋館は、特集陳列以外、素通りしてしまうことが多いのだが、今回は、ふだん行かない3階の朝鮮の陶磁や西域美術も、久しぶりに見てきた。うーん、北東アジア(朝鮮)の考古遺物はちょっと寂しいなあ。
コメント
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