見もの・読みもの日記

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下手も芸のうち/おまえが若者を語るな!(後藤和智)

2008-09-23 22:39:57 | 読んだもの(書籍)
○後藤和智『おまえが若者を語るな!』(角川Oneテーマ21) 角川書店 2008.9

 後藤和智氏は『「ニート」って言うな!』(光文社、2006)の著者のひとりである。本書では、90年代後半から2000年代初頭にかけて流行した若者論を検証し、批判する。批判の対象となるのは、簡単に人を殺したり、成人しても働こうとしない、「理解しがたい若者」の出現を、「彼らの生き方の枠組みが変わってしまった」という世代論で説明しようとする言論人たち。彼らの言説は、多くの通俗的な若者論の根拠となり、若者への排除や不寛容の源泉となっている、と著者は指摘する。

 たまたま立ち読みしたとき、『下流社会』の三浦展批判が目について、思わずニヤリと(同感)して、買ってみたのだが、あまり面白くなかった。三浦のほかには、宮台真司、香山リカ、東浩紀、鈴木謙介、寺脇研などが槍玉に上がっているのだが、私は、これらの論者は「掠って」はいるものの、あまり読み込んでいないのである。宮台真司は、アジア主義を語り出してからは少し読んでいるが、本書の批判の対象になっている、『サイファ覚醒せよ!』(2000)に至る、一連の若者論は読んでいない。香山リカも、『老後がこわい』(2006)みたいな身辺雑記系はいいけれど、大上段にナショナリズム(若者の右傾化)を分析した著作はいかがなものか、と思って、ご遠慮申し上げていた。なので、原著作をきちんと読んでいないため、著者による引用と、著者の批判を読み比べても、心から同意も反発もできず、中途半端な読後感だった。

 著者は、上記の論者の著作に対して、「統計データの検証が不十分」とか「自分の見聞した少数の例だけを根拠にしている」と、たびたび批判している。確かに、著者の批判は論理的に妥当なのだが、新書や選書の「著述スタイル」としては、仕方がないところもあるんじゃないか。データで語られるより、嘘でも「私はこういう若者に会った」を根拠として提示するほうが、一般読者には受け入れられやすいだろう。

 あと、香山が精神医学の病名を用いて若者を語るのも気に入らないらしくて、「直接診断しているわけではない」のに、印象論で勝手に決めつけていると憤っているが、そんなことは分かってるって。学者や識者と言われる人たちが、自分の専門分野の用語で、社会現象を語ってみせるのは、ある種の「芸」のうちだと私は思う。「芸」が見事なら拍手もするし、ひとりよがりの下手くそなら無視すればいい(ベストセラー『○○の品格』など)。これは、言論人の倫理よりも、むしろ読み手のリテラシーの問題ではないかと思う。
コメント (1)
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