○東京国立博物館・本館16室 歴史を伝えるシリーズ・特集陳列『災害-博物館と震災-』ほか
http://www.tnm.go.jp/
実際に歩いたコースとは異なるが、2階の見ものから語ろう。国宝室には、久しぶりに『平治物語絵巻 六波羅行幸巻』が出ていた。絵巻にもいろいろあるが、私は硬派な軍記絵巻の類が大好きである。ただし、この作品、登場人物の大半は男性であるが、颯爽としたヒーローばかりではない。巻頭、内裏に幽閉された二条天皇が脱出を図る場面。朱塗りの門柱の根元には、のんきな惰眠をむさぼる若武者。女装した二条天皇を乗せた女車を、野卑な表情で覗き込む男たち。いちばん気になるのは、何もかもめんどくさそうな表情をした牛飼い童の中年男。場面の端々に登場する小物たちが、リアルな人の世を感じさせる。天皇の逃亡を知って慌てふためく信頼のもいい。つんのめるように御簾の内を覗き込み、袴を腿の上までたくしあげて、大きく地団駄を踏む。的確な肉体描写に、激しい動揺があらわれている。
7室(屏風と襖絵)には、久隅守景の『納涼図屏風』。うれしい。ちょうど1年ぶりだ。新春の『松林図屏風』とともに、こちらは晩夏の恒例になるのかなあ。乳白色の余白には、虫の声が満ちているような気がする。たっぷりした墨線で大胆に描かれた夕顔の葉は、初秋の風にざわめいているようで、涼しげ。8室(書画の展開)では、狩野常信筆『半月白鷺図』の愛らしさに目が留まる。江戸狩野派の実力者、常信の作品は、最近、それと分かるようになってきた。
1階は、『六波羅蜜寺の仏像』『二体の大日如来像と運慶様の彫刻』の2つの特集陳列をざっと流して、いつものお気に入り、16室(歴史資料)へ。今回の特集陳列のテーマは『災害-博物館と震災-』である。東京帝室博物館が被災した関東大震災の特集かと思ったら、必ずしもそうではなくて、安政の大地震にかかわる瓦版や鯰絵も展示されていた。
安政大地震の惨状を伝える瓦版(色摺り)は、木造家屋がねじまがるように倒壊し、人々が巨大な炎の中に放り出される阿鼻叫喚の様子が、リアルに捉えられている。絵師は、一瞬のうちに自分の脳裡に焼きついた光景を、紙の上に再現したのだろう。カメラもないのに神業である。吉原を題材にした瓦版には、呆然とたたずむ裸体の遊女が描かれている。
東京帝室博物館が関東大震災で被災した当時の資料は、2年前にもこの展示室で見た(日本の博物学シリーズ『上野公園の130年』)が、今回は、陳列物が倒れた状態の写真帖などが公開されていて、興味深かった。
あわせてのおすすめは、この夏、ひそかにリニューアルした20室(教育普及スペース=玄関を入ってすぐ左)。現在の博物館本館は、震災後、設計を公募し、昭和12年(1937)に竣工したものだが、このとき「博物館はどうあるべきか」「保存か展示か」「(金をかけるべきは)建物か、美術品の購入か」等々をめぐって、盛んな議論があったようだ。展示ブースの引き出しに、当時の新聞切り抜き帖の複製が用意されていて、自由に読める。子供向けに、触って楽しめる企画の一環らしいが、これは大人向けだと思う。
http://www.tnm.go.jp/
実際に歩いたコースとは異なるが、2階の見ものから語ろう。国宝室には、久しぶりに『平治物語絵巻 六波羅行幸巻』が出ていた。絵巻にもいろいろあるが、私は硬派な軍記絵巻の類が大好きである。ただし、この作品、登場人物の大半は男性であるが、颯爽としたヒーローばかりではない。巻頭、内裏に幽閉された二条天皇が脱出を図る場面。朱塗りの門柱の根元には、のんきな惰眠をむさぼる若武者。女装した二条天皇を乗せた女車を、野卑な表情で覗き込む男たち。いちばん気になるのは、何もかもめんどくさそうな表情をした牛飼い童の中年男。場面の端々に登場する小物たちが、リアルな人の世を感じさせる。天皇の逃亡を知って慌てふためく信頼のもいい。つんのめるように御簾の内を覗き込み、袴を腿の上までたくしあげて、大きく地団駄を踏む。的確な肉体描写に、激しい動揺があらわれている。
7室(屏風と襖絵)には、久隅守景の『納涼図屏風』。うれしい。ちょうど1年ぶりだ。新春の『松林図屏風』とともに、こちらは晩夏の恒例になるのかなあ。乳白色の余白には、虫の声が満ちているような気がする。たっぷりした墨線で大胆に描かれた夕顔の葉は、初秋の風にざわめいているようで、涼しげ。8室(書画の展開)では、狩野常信筆『半月白鷺図』の愛らしさに目が留まる。江戸狩野派の実力者、常信の作品は、最近、それと分かるようになってきた。
1階は、『六波羅蜜寺の仏像』『二体の大日如来像と運慶様の彫刻』の2つの特集陳列をざっと流して、いつものお気に入り、16室(歴史資料)へ。今回の特集陳列のテーマは『災害-博物館と震災-』である。東京帝室博物館が被災した関東大震災の特集かと思ったら、必ずしもそうではなくて、安政の大地震にかかわる瓦版や鯰絵も展示されていた。
安政大地震の惨状を伝える瓦版(色摺り)は、木造家屋がねじまがるように倒壊し、人々が巨大な炎の中に放り出される阿鼻叫喚の様子が、リアルに捉えられている。絵師は、一瞬のうちに自分の脳裡に焼きついた光景を、紙の上に再現したのだろう。カメラもないのに神業である。吉原を題材にした瓦版には、呆然とたたずむ裸体の遊女が描かれている。
東京帝室博物館が関東大震災で被災した当時の資料は、2年前にもこの展示室で見た(日本の博物学シリーズ『上野公園の130年』)が、今回は、陳列物が倒れた状態の写真帖などが公開されていて、興味深かった。
あわせてのおすすめは、この夏、ひそかにリニューアルした20室(教育普及スペース=玄関を入ってすぐ左)。現在の博物館本館は、震災後、設計を公募し、昭和12年(1937)に竣工したものだが、このとき「博物館はどうあるべきか」「保存か展示か」「(金をかけるべきは)建物か、美術品の購入か」等々をめぐって、盛んな議論があったようだ。展示ブースの引き出しに、当時の新聞切り抜き帖の複製が用意されていて、自由に読める。子供向けに、触って楽しめる企画の一環らしいが、これは大人向けだと思う。