見もの・読みもの日記

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5月8日は鎌倉へ/若き清方と仲間たち(鏑木清方記念美術館)

2021-05-11 21:46:28 | 行ったもの(美術館・見仏)

鏑木清方記念美術館 特別展・烏合会結成120年記念『若き清方と仲間たち-浮世絵系画家の新時代-』(2021年4月15日~5月19日)

 連休終盤、家に籠っているのも気が滅入るので、鎌倉に来てみた。期待していた牡丹や藤は跡形もなかった。人出が少ないので、いつも混んでいる小町通りや御成通りを歩いてみたら、いつの間にか、ずいぶんお店が入れ替わっている感じがした。

 駅で見かけたポスターに惹かれて同館へ。明治34年(1901)、23歳の鏑木清方をはじめとする若者たちにより、小さな美術団体「烏合会(うごうかい)」が結成されて120周年となることを記念した特別展である。Wikipediaから補足すると、当時挿絵画家として活躍していた月岡芳年・水野年方・尾形月耕らの門下生である青年画家たちが中心となり、浮世絵の伝統を生かした新しい風俗画を目指した。会員には、池田輝方、鰭崎英朋、山中古洞、大野静方などがいる。

 鏑木清方の代表作『一葉女史の墓』は、烏合会第2回展に発表したものである。それでポスターにもなっていたのか。隣に並んでいたのは、鰭崎英朋『鑓権三重帷子(やりのごんざ かさねかたびら)』。初めて見る作品だがすごくいい。伏見京橋妻敵討の段だろう。橋の欄干の支柱にすがりつきながら崩れ落ちていく人妻・おさゐ。そのまろやかな体のずっしりした量感。天を仰いだ横顔の、死を覚悟した絶望と恍惚。橋の上では、捕手に囲まれた権三が刀を抜いて抵抗しているはずだが、そこはぼんやり闇に溶かしている。橋の向こうには昇りかけの大きな満月。文楽の舞台で聞いた、盆踊りのお囃子が耳によみがえってきた。

 同館には、マップケースみたいな引き出し式の展示ケースがあって、各種アーカイブ資料、手書きの回覧誌やスケッチブック、写真などが収められていて面白かった。

■東勝寺橋

 駅へ戻りかけて、もう一か所、行っておきたいところを思い出した。この日は5月8日で、澁澤龍彦さんのお誕生日だというのを、朝、SNSで読んでいた。澁澤さんのお墓は北鎌倉の浄智寺にあり、そのすぐそばの澁澤邸(非公開)も近くまで行ってみたことがある。でも私が、澁澤さんを偲ぶのに好きなのは、滑川にかかる東勝寺橋だ。終戦後しばらく、澁澤さんの一家は、この橋のたもとの借家に住んでいた。その家が、長いこと残っていたのを、私も何度か見に来たことがある(※2007年の記事)。しかし何年か前に、とうとう取り壊されてしまった。

 Googleマップで閲覧できる一番古い画像は2010年3月のもので、私の記憶に残っている、古色蒼然とした木造家屋の写真はない。残念だなあ、写真を撮って残しておけばよかった。今はこんな感じ。

 でも深い緑と、渓谷と呼びたくなる風景美はそのまま。空想の中で在りし日を思った。

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