見もの・読みもの日記

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「とらのゆめ」の作者/大・タイガー立石展(千葉市美術館)

2021-05-09 23:49:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

千葉市美術館 『大・タイガー立石展 POP-ARTの魔術師』(2021年4月10日~7月4日)

 連休中は、都内の美術館・博物館が軒並み休業になってしまったので、千葉や神奈川に遠征して、いくつか展覧会を見てきた。県外移動になるが、よく気を付けて、ひとりで行動しているのでご容赦願いたい。

 タイガー立石(1941-1998、本名・立石紘一、又の名・立石大河亞)は、九州・筑豊の伊田町(現・福岡県田川市)に生まれ、上京して「読売アンデパンダン」展でデビューし、絵画、陶彫、マンガ、絵本、イラストなどのジャンルで独創的な世界を展開した。70年代はミラノに移住し、多くのイラストやデザイン、宣伝広告などを手がけた。1982年に帰国し、85年から千葉・市原を拠点に活動(あ、千葉県とはそういう縁があったのか)。1998年4月に56歳という若さでこの世を去った立石の活動を約250点の作品・資料で振り返る。

 私は抽象的な現代絵画は好みでないのだが、彼の作品は、具体的なモノやヒトや動物や植物をコラージュのように積み重ね、だまし絵のように不思議な世界を作り出していくので楽しめた。絵画作品でも積極的にマンガのコマ割りの手法を用いて、時間の経過を表現しているのが面白いと思った。

 私が初めて彼の作品に出会ったのは、絵本『とらのゆめ』(福音館、1984年)だった。もっと昔のことのように思っていたが、出版年を見たら、完全に成人後だ。弟もすでに高校生で、我が家に小さい子供はいなかったが、母親が趣味で「こどものとも」「かがくのとも」を定期購読していたので、この絵本に出会うことができた。宇宙のように荒涼とした空間を、緑のトラが、形を変えながら浮遊していく絵本。と説明しておくしかない。本展で、彼の作品には、わりと早い時期から緑のトラが登場していることを知った。

 本展では、1部屋だけ写真の撮れるセクションがある。↓これが『とらのゆめ』に似ていて懐かしかった。

 しかし、さらに楽しかったのは『明治青雲高雲』(なんだこのタイトルはw)『大正伍萬浪漫』『昭和素敵大敵』の大作シリーズ(いずれも1990年、田川市美術館所蔵)。『明治青雲高雲』の全景はこんな感じ。西郷隆盛とか大久保利通とか、明治の偉人・有名人が描かれていることは、すぐに分かるだろう。

 それ以外に、中央はもちろん『鮭』で、その背景には青木繁『海の幸』や和田三造『南風』が描かれている。右上、軍服姿の明治天皇の後ろは、河竹黙阿弥『漂流奇譚西洋劇』パリス劇場表掛の場ではないかと思う。左上はたぶん小村寿太郎。こんな調子なので、見れば見るほどハマる。

 『大正』の画面の右下、北原白秋(ルパシカを着ている)、鈴木三重吉ら「赤い鳥」運動の人々。背景で、カナリアが「ぞうげの舟に銀のかい」に乗せられているのもよい。

 『昭和』前半には、古賀春江『海』。戦争のイメージは言うまでもなし。

 『昭和』後半、このへんは1960~70年代。東京オリンピック、ジャンボジェット、鉄腕アトム、(小さいけど)石原裕次郎、松下幸之助、三島由紀夫…。

 純粋に美術好きの人には、こういう作品は受けないかな。私は美術も好きだが、歴史や世相風俗も好きなので、飽きずにずっと眺めていた。所蔵元の福岡県・田川市美術館のホームページを見に行っても、特にこの作品に言及はない。ふだんは展示されていないのかな。この怪作、ぜひ多くの人に知られますように。

コメント
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