見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

復讐と家族愛/中華ドラマ『無証之罪』

2021-05-13 21:23:00 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『無証之罪-Burning Ice-』全12集(愛奇藝、2017年)

 近年、話題作続出の華流サスペンスドラマの先駆けとなった作品である。公開当時はこのジャンルに興味がなかったのだが、今でも評判を聞くので、あらためて視聴してみた。いや納得である。見逃したままにしなくてよかった。

 舞台は中国東北地方の架空の都市・哈松(ハーソン)。冬のある日、運送会社社長の絞殺死体が雪だるまに括りつけられた状態で見つかった。「私を捕まえてください」という挑戦的な貼り紙。4年前から続いている「雪だるま連続殺人事件」である。捜査当局の局長は、万事型破りの刑事・厳良を応援に呼び寄せる。

 殺害された社長の本妻は、夫が若い愛人に貢いだ金銭を取り戻そうと懇意の法律事務所に協力を依頼する。自分の学費と兄が営む食堂の開店資金のため、やむなく愛人をしていた朱慧茹は困り果てる。法律事務所の見習い・郭羽は、朱慧茹のむかしの同級生だった。郭羽は朱慧茹の保護をチンピラの黄毛に頼むが、女好きの黄毛は、人気のない場所に朱慧茹を呼び出し、彼女に暴行しようとする。止めに入った郭羽と朱慧茹は、黄毛を殺害してしまう。呆然とする二人。そこへ通りかかった謎の男から「助けてあげよう」と提案される。男は、現場から二人の犯行の痕跡を消し、今後、二人が警察にどのように証言すべきかも教える。

 郭羽は、黄毛の車にあったバッグをひそかに持ち出していた。これは郭羽の上司・金弁護士のバッグで、中には危ない商売で被害者から巻き上げた大量のキャッシュカードが入っていた。金弁護士は、ヤクザの顔役・老火への支払い期限が迫っているため、闇預金を失って慌てる。老火の依頼を受けた殺し屋・李豊田は、バッグの隠匿を疑われる人々を次々に殺していく。

 その頃、厳良は「雪人」(雪だるま)を追って、謎の男、駱聞に迫っていた。駱聞は、かつて厳良の同僚で優秀な法医だったが、妻と娘の失踪以来、職を辞して、ひとりで犯人を追っていた。彼が掴んだ手がかりは、指紋がひとつ、安煙草の吸い口と動物の骨(嘎拉哈/ガラハ)、そしてネットカフェのPCに犯人が残したハンドルネーム「雪人」。以来、駱聞は「雪人」の犯行を匂わせる殺人を繰り返し、警察の捜査を煽ってきたのだ。しかし駱聞は尿毒症を患い、余命わずかと宣告されていた。

 殺し屋・李豊田は、ついに郭羽の前に現れるが、大金への執着から大胆になった郭羽は、李豊田に「協力」を提案する。郭羽は朱慧茹の兄に「黄毛を殺したのは朱慧茹」と告げて絶望させ、死に至らしめる。さらに病床の駱聞を「雪人に会える」と呼び出し、李豊田に殺させる。李豊田は、たまたま巡り合わせた厳良の息子(再婚相手の連れ子)・東子をも殺害して逃亡する。

 1年後。郭羽は弁護士として成功し、朱慧茹と暮らしていた。すっかり人が変わった郭羽に疑念を抱く朱慧茹。厳良は李豊田と郭羽の関係に確信を抱くが、何も証拠がない。捜査チームの林隊長(女性刑事)は、息子を失った厳良が、駱聞と同じ道を行くことを恐れるが、厳良は警察を去り、ひとり李豊田に立ち向かう。

 最後は万事解決するのだが、そこまでの道のりのハードなこと。何より善人と悪人の差が紙一重なのが怖い。気は優しいがビビりで愚図の郭羽が、金と独占欲から悪魔に豹変していく様子。殺人狂みたいな李豊田さえ、かつて妻と子がいて、駱聞の妻子を誘拐して殺したのは復讐(逆恨み)だったことが語られている。

 腹の底まで凍りつくような陰惨な物語だが、娘を失った駱聞と朱慧茹のつかの間の交流とか、無頼な厳良と血のつながらない息子の親子愛とか、疎外された者どうしの心の通い合いに慰められる。男女の仲を超えて林隊長と厳良が築き上げる信頼関係もよい(最後の見せ場!)。中国の警察ドラマには、等身大で共感できる女性刑事役が多いが、本作の林隊長(王真児)は随一だと思う。厳良役の秦昊、駱聞役の姚櫓も魅力的。李豊田役の寧理さんは、トボけた顔なのに怖い。そして、ロケ地・哈爾濱(ハルピン)の街並みが味わい深い。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする