見もの・読みもの日記

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洋行帰りの職人気質/渡辺省亭(藝大美術館)

2021-05-01 23:30:58 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京藝術大学大学美術館 『渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画』(2021年3月27日~5月23日)

 先週の土曜日、翌日から緊急事態が始まると分かって、慌てて出かけた展覧会のレポートを書いておく。渡辺省亭(1852-1918)の名前は、なんとなく知っていた(このブログの初出を確かめたら、2010年に読んだ森銑三のエッセイだった)が、評価の機運が高まったのは2017年頃からだと思う。本展は、渡辺省亭の全貌を明らかにするはじめての展覧会とのこと。

 嘉永4年(1852)生まれの省亭は、最も早く洋行した画家のひとりで、明治11年(1878)の万博を機にパリに渡り、印象派の画家たちとも交流した。その後も海外では高い評価を保ち続けたため、本展は欧米の美術館や個人コレクションからの出品がけっこう多い。国内でも評価は高く、制作依頼も多かったが、公の展覧会や博覧会に出品することは好まず、特定の団体にも所属しなかった。明治31年(1898)日本美術院に誘われたときも辞退している。日本美術院といえば、東京美術学校を追われた岡倉天心が創設した団体で、その誘いを断った省亭の展覧会を藝大でやるというのが、ちょっと面白かった。

 省亭は小説の挿絵、美人画、風俗画など、さまざまなジャンルを手掛けているが、やはり神髄は花鳥画である。今回、選りすぐりの名品を集めたこともあるだろうが、その描線の確かさ、色彩の繊細さに、誇張でなく息を呑む。牡丹のピンク色のグラデーションとか、フクロウの羽根色とか。奥行の浅い展示ケースが多くて、ぐっと作品に近寄れるのが嬉しかった。

 植物も動物も、自然な姿態のままで一枚の絵になっている。なんとなくイギリスの装飾絵画(食器やファブリックに描かれる)に通じるような気がした。あと、省亭描く小動物の目には必ずハイライトが入っていることにも気づいた。

 省亭は迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額の原画も描いている。本展には、東博が所蔵する原画10点も(前後期5点ずつ)展示されている。カモやカワセミの羽色の繊細なグラデーションともふもふ感、これを七宝で表現させるって鬼だろう、と思うのだが、七宝制作者が濤川惣助と聞いて納得する。妥協のない技術と技術のぶつかり合いを、双方楽しんでいたのではないかと思う。この七宝額は出品されていないが、赤坂離宮に見学に行けば見られるとのこと。覚えておこう。

 そして後半には、濤川惣助作の七宝作品がいくつか展示されている。静嘉堂美術館の『七宝四季花卉図花瓶』1対は「渡辺省亭原画」であることが判明しているものだが、そのほか『柳燕図花瓶』『藤図花瓶』なども、省亭原画と「推定」されていた。なるほど。名前を残すことには無頓着だったのだろうか。省亭の全貌が明らかになるのは、まだこれからのような気がする。

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