付け焼き刃の覚え書き

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「戦う民間船~語られざる勇気と忍耐の記録」 大内建二

2008-01-30 | 戦記・戦史・軍事
 太平洋戦争において軍は民間漁船や商船を徴用しては、輸送や監視任務を与えて千島からソロモン諸島までに送り出していた。捨て駒となって次々と海の藻屑となっていった商船及び漁船の乗組員の数は最低でも6万名。陸海軍全将兵の犠牲率19%(187万名)に対し、商船乗組員の犠牲率は44%である。
 輸送任務に狩り出されソロモン海に沈んだ商船団、特設監視艇として日本に接近する敵編隊を報告したまま消えた漁船団。けれども、こうした民間船に対して、海軍省が与えたものは、「船員ニ告グ」とした精神論を振りかざした檄文だけであった。
 しかも日本政府は戦後になってもこれら徴用船員の犠牲をほとんど無視し続け、戦没船員追悼式が開催されたのは1971年になってからのことであった。民間海員の犠牲に対して国家をあげて戦没者の追悼と補償をおこなった海洋国イギリスとは対照的な対応であった。
 一方、アメリカでは戦時標準設計のリパティ級貨物船が1日2隻のペースで完成し、しかも能力を落とすことで生産性を高めようとする日本の急造船に対し、輸送船としての機能を充分に満たしたものであった……。

 戦争に狩り出された民間船の姿を、悲惨な日本の輸送船団から別の意味で悲惨だった英国商船団、そして輸送船として活躍した豪華客船クイーン・メリー、あるいは各国で戦時に建造された急造輸送船などの話題を交えながら綴っています。戦時の輸送船団の話はどこも悲惨には違いないのだけれど、日本は送り出される時点で悲惨で無責任なものになっているあたりが泣かせます。
 それに国力の違いも涙をそそられます。上陸作戦時は海岸での物資積みおろし時が無防備となります。それは日米とも同じ話だったのですが、結局最後まで人力でのたのた作業をするしかなかった日本に対し、「ならトラックに荷物を載せたまま船に載せ、そのまま上陸させちゃれ」と考えて実行できるアメリカの国力がうらやましいです。
 そして補則としてちょろっと記されているけれど、日本の輸送船に乗り込んだ将兵の食事メニューはご飯、味噌汁、漬け物、ヒジキと切り干し大根の煮物、干物のエンドレス。それに対してクイーン・メリー号では牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉、ジャガイモ、シリアル、バター、卵、フルーツ缶詰、ハム、ベーコン、ジャム。さらに酒保ではタバコ、ソフトドリンク、菓子類を買えたけれど、豪華客船だけに床が汚れるチューインガムだけは禁止されたそうな。

【補給】【輸送船団】
コメント
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