付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「夏のくじら」 大崎梢

2011-09-10 | アイドル・声優・芸能
「好きというのは、ある種弱みを持つことかもしれない」

 東京で進学校に通っていたはずの篤史は、結局、高知大学へと進学した。
 そこは祖父母の住む土地であり、中学生の頃までは夏休みの間中、過ごしていた街だが、特に入りたいと思った大学でもなく、なんとなくもやもやした大学生活が始まった。
 そんなとき、従兄弟によさこい祭りに誘われる。
 よさこい祭りは、阿波踊りに対抗する形で商工会議所有志によって昭和になって始まった祭りで、今では地区や企業やサークルなど1グループ100人以上の団体が集まって、2万人近くが演舞を繰り広げてパレードする一大イベントだ。
 久々に復活するという地区のグループに、立ち上げからなし崩しに参加することになった篤史だったが……。

 どこかで見覚えのある作者名だと思ったら、『配達あかずきん』の人でしたか。
 主人公が最終的によさこいに参加する動機が初恋の人を探して約束を果たすためであり、それ以外にもチーム内の恋愛模様あり、従兄弟の進路問題ありといろいろストーリーはあるのだけれど、中心を貫くメインストーリーは「よさこい祭りに参加する」というもの。
 いろいろな性格や境遇の男女が集まり、曲を決め、振り付けを依頼し、衣装デザインに煮詰まり、ホームページを立ち上げて参加者募集をし、練習し、役割分担しというところから当日の大騒ぎまで、よさこい祭りの裏表がぎっしり詰まった、メイキング・オブ・よさこい。
 集まったメンバーも、みんな自己中心的なところが面白い。
 誰かのためとかではなく、自分が踊りを極めたいから、自分が目立ちたいから、とにかく自分がやりたいから……と本当にわがままな正直者ばかりで、それでもバラバラにならないのは「そのためには全体のデキが良くないと話にならない」ということが分かっているから。なので、みんな自分にも他人にも厳しい。
 槇村さとるの『ダンシング・ゼネレーション』とか『愛のアランフェス』とか好きだったから、こういう話は好きです。

 この元祖「よさこい」が神事とはまったく関係ないイベントということにもびっくりしたけれど、考えてみれば大学時代に下宿していた豊橋市の初夏の風物詩「納涼まつり」が同じように神さまと関係ないと聞いて笑ったのを思い出しました。
 夜店に行くぞと誘われ、何の祭り?と聞いたら夜店は夜店だという回答。いちおう大正時代から続くらしいのですが、盆踊りとも神事ともまったく関係なく、ただ延々と風船釣りやわたがしの屋台だけが延々と続いているという非日常が日常的に存在するという面白さ。

【夏のくじら】【大崎梢】【スカイエマ】【大森望】【よさこい】
コメント
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