付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「大統領の密使」 小林信彦

2012-11-04 | ミステリー・推理小説
「正しいってことはつまんねえってことですよ」
 ジャパン・テレビの敏腕プロデューサー、細井忠邦の言葉。

 宿泊したホテルから備えつけの聖書を持ち帰ってしまった人気DJ・今似見手郎は、法外な買い取りの申し出から暴力によるものまで、バイブルを手に入れようとする複数勢力に狙われることになってしまった。
 困り果てた今似が助けを求めたのは、低俗番組でヒットを飛ばす敏腕プロデューサーの細井忠邦だった……。

 子供向けから大人向けになった、オヨヨ大統領シリーズの1作目で、時代背景としては大学卒の初任給が4万円で、浅草に浮浪児がいてもおかしくない1970年代前半。
 ミステリとしても良書なんだけれど、「これでイラストが美少女ムーンフラワーとかだったら、今でいうところのライトノベルだよなあ」とも思ってしまいます。映画とか小説とかテレビとか、その時代に生きていないと通じないような話題に紙幅を費やしているのだもの。ガンダムの話などが作品中でかわされた『クレイジーカンガルーの夏』とか、セガサターンの素晴らしさやゲームに狂った両親の話でたびたび話が横にそれる『ベン・トー』とかの感覚に似てます。
 宍戸錠やジェームズ・ボンドの映画の話やら、ジョン・ウェィンの奥さんが誰だとか、業界人が繰り広げたタチの悪い冗談の数々とか、戦後の渋谷の光景とか、雑学やら裏話やら思い出話が次々繰り広げられます。さらに、交通違反を取り締まる不思議な警官とか水ギョーザから馬刺しまで食べまくる英国情報部のトレヴァー・スマイリーなども乱入し、話がどこへ流れていくのか、これは伏線なのか余談なのか、わからないままクライマックスに雪崩れ込みます。
 英国大使館での、シャリピアン・ステーキを最初に考えた老シェフと冷やし中華を発明したテレビ・プロデューサーのが対面するくだりとか、神出鬼没の青木の奥さんなど、なんの意味があったのか考え込んでしまいます。
 あと、青島幸男が実名なのに野末陳平が仮名なのは何故だろうとか……。

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コメント (2)
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