「まぁ、よくわからんが、やりたいことができたならいい。とりあえず、できることからやればいい。半年前のマインは森まで歩けなかった。外に出るのも嫌がっていた。今は自分で行って帰ってこられるんだから」父ギュンターはマインの行動に理解を示す。というより、いつも病弱でどこまで生きられるかと心配していた娘が外に出るようになっただけで嬉しいのだ。
就職を目前に控えた女子大生、本須麗乃は死んだ。地震で倒れてきた書架に押しつぶされたのだ。
そして転生。
本に埋もれて死ぬのが本望で、生まれ変わっても本を読むんだと笑っていた麗乃だったが、転生した世界の文明レベルは魔法こそあるらしいものの中世レベル。しかも庶民の、ありふれた兵士の家の末娘。
紙といったら１枚が１ヶ月分の給与くらいはするという羊皮紙しかなく、本といえば貴族の所蔵品くらいという貴重品で、文字を読めない人の方が遙かに多い世界だった。
「わたし、『本』が欲しい。『本』が読みたい。こんなに『本』が読みたいのに、『本』がないんだよ」
麗乃あらためマインは絶望に泣き伏す。泣き伏すだけなら良かったのだが……。
周囲にろくに紙も文字もない世界に生まれ変わってしまった少女が、自分が思う存分本を読むために、エジプト文明をリスペクトしたり、メソポタミア文明に万歳を叫んだり、黄河文明に愛を囁きつつ、失敗を繰り返しながらも世界を変えていこうとするもので、俺ＴＵＥＥＥな異世界転生譚はもう捨てるほどあるのだけれど、これはむしろ「朝ドラ」です。
つまり、明るくて前向きだけれど、うっかりも多いヒロインが彼女を愛してくれる家族や近所の人に助けられたり助けたりしつつ、失敗を繰り返しながらも諦めずに目標に向かって前進していく話……って、まさに朝の連続テレビ小説のフォーマットです。異世界知識やら何やらあるけれど、社会的には制約ばかりの平民の娘で、病弱で虚弱で、周囲の常識を知らないことからトラブルも起きるし、思い通りに行かないことばかりだけれど、それでも諦めずに前進し、３歩進んで２歩下がりながらも「下剋上」していくのが面白いのです。暴走するけどバカじゃないヒロインは大好きです。
本を作りたい主人公の物語だけに、本の作りそのものも丁寧。あたりまえといえば当たり前だけれど、印象的な巧いイラストを配した表紙はもちろん、背表紙から裏表紙まで印象的で面陳でも棚差しでも目に付く装丁、美麗な地図に読みやすい活字。見ているだけで楽しい、読んで嬉しい本になりました。
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